第3話 戸惑い

 コンラート・フォン・ノルトハイムは花嫁になったオルガに飲まされた媚薬でウツラウツラしていたとき、睦事を始めたことを思いだした。それは理性という制御を失い、ただ動物的な反応によって相手の貞操を奪い貪っていることは分かっていた。しかし身体は快楽を求め、精神の命令に従わなかった。あれほど嫌で仕方なかった花嫁だというのに! 据え膳食わぬは男の恥とばかりに!


 彼女を弄んで何度も歓びの波を超えて行ったのかは分からなかった。相手の女が泣き叫んでいるのをお構いなく。相手が本当に気持ちいいのか考える事もなく、ただ自分勝手に!


 そして眠りの世界へ落ちていったが、目覚めた時、抱いていた女は金髪碧眼で王女オルガと似ていたが別人だった。オルガよりも幼い少女だった。そして枕元にあった手紙で妻になったはずのオルガに裏切られたことを知った。結婚初夜を過ごしたはずの花嫁は入れ替わっていた! 抱いていたのは別のオルガだった!


 「どういうことですか? わたしもオルガというのですけど、どうなっているのですか?」


 目の前のオルガは戸惑っていた。名前は同じで顔つきも似ているが王女ではない平民階級の娘が。手紙に書いていたが彼女はそっくりだったので拉致されたので、事情は何も知らないと。この時コンラートはこう感じていた。最初からこの少女だったら結婚相手として良かったのにと。


 「お前、此処に来る前の事を思い出してくれないか?」


  すると、オルガは髪をかき上げながら考えていた。しばらく呆然としていた意識が戻ってきたらしく事情を説明し始めた。


 「たしか、あれは憲兵隊だったかしら。わたしが持っている薬の中に禁じられた錬金術師が使う劇薬があるという訴えがあったといわれて連行されたのよね。そして憲兵隊本部の地下壕に連れていかれて・・・あれ? 記憶がそこからないわね」


 オルガはそのあとされたのはこんな事ではないかと考えた。薬で眠らされて着ていた粗末な服を脱がされて、沐浴してから髪を整えて化粧をして王女の姿にされたのだと。そういえば、自分ってあの嫌われものの王女オルガにそっくりと言われたことがあったと、思い出した!


 「ところで、あなた。お名前って? たしかノルトハイム公爵ですよね? 顔は分からないけど私ってあの悪役令嬢のオルガに少しは似ているのですか?」


 オルガは思い出した。憲兵隊や近衛兵がしょっちゅう歩いているので、誰かに聞いたときに教えてもらったのだ。明日は大聖堂で王女の婚礼があるからと。それにしても、あんな悪役令嬢と貶されている王女を押し付けられるノルトハイム公が不憫だと。


 「悪役令嬢か・・・オルガはそう陰口を言われていたな。だから僕は嫌だったのだ結婚が。でもお仕えしている国王陛下のご命令だからしかたないと諦めたのだ。それが領民や家臣のためならと。だから気が進まなかったんだ、いくら顔つきは良くてもあんなのは・・・でも、それにしてもお前ってオルガにそっくりだな。それに、お前の方が性格よさそうだな」


 コンラートはそういうと、手を差し出した。オルガはその手を取ってみた。すると、優しく寝台からエスコートして寝室内にある安楽椅子に案内してくれた。そのときオルガは何が起きているのか考えられなくなるほど緊張していた。


 「わたしってどうなるのですか? わたしはただの薬売りの娘ですよ。名前は同じで顔もにていても王女じゃありませんよ。あなたのお情けを受けたかもしれませんが、結婚したといえません! だって結婚の誓いをしていませんから。それにあなたの事はよく知らないし、貴族なんかになれませんわ」


 オルガは戸惑いながら何が起きたのかを想像していた。たぶん入れ替わったのが、この寝室なのだと推測していた。昨夜、眠らされていた自分は、あの王女とその協力者によって、ここに連れてこられ、媚薬を飲まされ意識が呆然としている公爵の横にされて、花嫁として契りを交わしてしまったのだと。そして王女のオルガは・・・どこにいったのだろうか?


 「そうだよな。お前は我がノルトハイム家の指輪をはめているし、僕が・・・それはすまなかった。分かっていたら止めていたはずだ。でも朝まで気付かなかったんだ。

 それにしても、あのオルガは今頃は海の上かもしれないな。ここには新大陸で新しい夢を掴むなんて書いているが、もう関係ないな。国王陛下を裏切った娘なんかは。

 それよりも、お前。これからどうしたいと思う? 僕と一緒に暮らす事はないんだぞ。希望を言ってみろ!」


 コンラートにそう聞かれたがオルガはいま起きている事も理解しようとしているのに、今後の事を聞かれたって分かるはずないと言い返したかった。

 

 

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