第32話「猫好きなの?」

「はい、これ印刷した写真が中に入ってるから」


 フォトスタジオの店員は、そう言って二つの紙袋を差し出してきた。


「二人とも中々いいモデルになってくれたし、またいつでも来てね」


「いえ、こちらこそありがとうございました。初めてしっかりとした写真を撮ってもらえたので」


 俺はお礼をすると、スタジオの掛け時計を確かめる。


「すみません。この後、別の約束があるので」


「そっか。それじゃまたね……と、彼女ちゃんの方はまだ時間あるかな? 私、もう少しお話ししてみたいんだけど」


 結愛ゆあは少し驚いたようだったが、すぐに了承した。


「わかりました! 私で良ければぜひ。それでは尋斗ひろとさん、ここで失礼させてもらいます。帰りは付き人を呼びますので」


「そっか、気をつけてな!」


「はい!」


 結愛の元気な返事を聞いて、俺は店を後にした。



 あの二人、どんな話するんだろ? ……いや、ガールズトークを詮索せんさくするのは野暮やぼってやつだな。


 そんなことを思いつつ歩いていた俺は、いつのまにか咲良さくらの待つ場所へ着いていた。


「お待たせさん。友李ゆりとは一緒じゃなかったのか?」


「ええ。あたふたしながらどこかに走って行ったわ」


「そうか。それで、咲良はどこに行きたいんだ?」


 そう質問すると、咲良は真っ直ぐに俺の方を指差してきた。


「え、なに。俺? 人体実験でもするの?」


「違うわよ。あなたの後ろの猫カフェに行ってみたいの」


 後ろ? あ、本当だ。今まで気にしたことなかったけど、猫カフェなんてあったんだ。


「猫好きなの?」


「嫌いなのに行くはずないでしょ? 少し考えてみたらどうかしら」


 うぉ……相変わらずキレのあるツンデレだなぁ。


「まぁ、そうだな。それじゃあ、行こうか」


 そう言うと、俺は咲良の方に手を差し出した。


「……えっと、この手はどういう?」


「あ、悪い。二人はこうだったから、咲良もこの方が良かったかと……」


 なぁにやっちゃってんのぉ?! 超はっずかしい! すげぇ遊び慣れてるやつみたいな事しちゃったんだけど。さすがに自分でも引いた……。


「ごめん。とりあえず、行こうか……」


 俺は先に猫カフェの方へ歩きはじめた。


「別に、嫌だなんて……誰も言ってないんだけど……!」


 咲良は、俺のシャツの袖をつまみながら呟いた。この人、こういう時もツンツンしてるのな。


「そう、か。……ほら」


 俺は再び手を差し出した。


「うん……」


 思ったより手ちっさいな。それに少し冷たい。


 このサイズなら包み込めるんじゃね? と思った俺は、本当にできるのかチャレンジしてみた。


「んっ……ちょっと、何やって」


 いきなり手を包まれたた咲良は、ビクッとした。


「ごめんごめん。あんまりお前の手が小さいから、遊んじゃった」


「この変態」


 咲良は顔を真っ赤にしていた。これだけで変態認定かよ……。


 こんな感じで、リレーデートはアンカーの出番を迎えたのだった。

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