第33話「んんっ……にゃあ?」

-カラーン。


「いらっしゃいませ! お二人さまですか?」


「はい」


 ドアを開けると、エプロンを着た女性店員がやってきた。


「それではこちらの席にどうぞ」


 俺たちが案内されたのは角の席だった。猫の遊具が程近いところにあって、かなりの当たり席。


 席についてからしばらくの間、俺と咲良さくらはお品書きを凝視していた。


 なんだ、この名前は。


『ニャンニャンハイパーアイスクリーム』


『キュートな肉球パンケーキ•改』


『Z級キャットパフェタワー』


 などなど……。

 

 いや、わっかんねえよ! ハイパーなアイスクリームってなんだよ。何を改造したの? どこらへんがZ級なの?!


 ベースとなる食べ物はわかるけど、そのほかの要素が謎すぎて怖い……。


平良たいらくん、何にするか決めた?」


「あ、うん……」


 これ、注文の時は普通に言っていいよね?


 俺がちょっとした心配をしていると、咲良が店員を呼んだ。


「ご注文をどうぞ」


 こういうのは、男の俺が先に言った方が良さそうだよな。


「えっと、アイスコーヒーとパフェでお願いします」


「キャットコーヒーのアイスと、Z級キャットパフェタワーですね!」


 やめて復唱しないで! 俺がそう思っていると、続いて咲良が注文しようとしていた。


 大丈夫だ。やっぱり書いてある通りに言わなくても通じる。安心して注文するんだ。


「私はネコネコソーダフロートと、キュートな肉球パンケーキ•改で」


「かしこまりました! あちらに貸し出しの猫グッズがあるので、ぜひご利用ください」


 ……こいつ、メニューのまんま注文しやがった。なんの躊躇ためらいもなく、すらすらと。


「そんな驚いた顔して、どうしたの?」


「あ、いや。普通に注文したなぁって」


「それはするに決まってるじゃない」


 なんか、これ以上は言及げんきゅうしない方が良さそうだな。お互いのためにも……うん。



「あっちに猫集まってるし、行ってみないか?」


 気を取り直して、猫とじゃれあえるスペースに行くことを提案してみた。


「そうね、猫ちゃん……いえ、猫と遊ぶのが目的のカフェだものね……ハスハス」


「おい、落ち着け。落ち着いて深呼吸しろ」


 もしかして、咲良って猫を前にするとちょっとおかしくなっちゃう人なの? ハスハスとか言ってたけど大丈夫か?


 俺は不安になりながらも、早足で猫のもとへ歩いていく咲良について行った。



 そして、猫と遊び始めてから数分後……。


「はぁ、この子ふわふわ。はわわ、こっちの子はすごい頬ずりしてくる! ウフフ、みんな遊ぼぉ!」


「……誰、こいつ」


 案の定、咲良はほとんど別の人間になってしまっていた。


 いつもはツンツンしまくってる咲良が、猫を前にするとデレしかない女の子に豹変ひょうへんしてしまう……と。


 試しに、貸し出しのところにある猫耳カチューシャを、あいつの頭につけてみよう。


 さすがに勝手にそんなことをすればツンツンするはず!


「とうっ!」


 俺は油断し切っている咲良の頭に、黒猫のカチューシャをドッキングさせた。


「んんっ……にゃあ?」


「……」


 今、猫語を使ったぞ。しかも超自然に。猫の世界に溶け込みすぎて、意識しなくてもああなるのか……。


「ほら、平良くんも!」


 咲良は、俺の頭にも猫耳のカチューシャを付けてきた。


「やっぱり可愛い! 一緒に遊びましょ!」


 あろうことか、咲良はそう言いながら俺に頬ずりをしてきた。


「お、おい! お前何やって!」


「うぅん? 可愛い猫ちゃんになった平良くんと、じゃれてるんだよぉ?」


「そういうことじゃなくて……!」


 

 猫と遊ぶと理性を失うツンデレとか……俺は、どうすればいいってんだよぉ?!

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