第31話「大丈夫。すごい綺麗だよ」

「あと30分……どこに行きますか?」


「なんか、疲れない場所。あとプリクラがないところ」


 なんとか2セット目のプリクラを回避できた俺は、安堵あんどのため息をついていた。


 制限時間である40分までは、まだ15分ほど残っているらしいのだが、どうしたものか。



「そこのカップルさん! 写真撮って行きませんか!」


「……ん、俺たちすか?」


「そう。カップルでモデルになってくれる人探してて。無料で撮影させてもらってるんだけど、どう?」


 俺たちに声をかけてきたのは、見た目が20ちょいぐらいの、フォトスタジオの店員だった。


 プリクラに比べたら数百倍マシだが、また写真かぁ……。それに、この話にはなんか裏がありそうだ。


「えっと、なんでカップルだけ無料なんですか?」


 どれだけうまい話だとしても、念のために相手のふところを探るのは大事だ。


 というか、そもそも俺たちはカップルじゃないんだけど。


「無料になる理由は、私の趣味だからよ!」


「はい?」


 趣味ってなんだよ。意味わかんねえよ!


 俺がそんなことを思っていると、店員は目を輝かせて語りだした。

 

「幸せそうなカップルを見ていると、自分まで幸せになってくるでしょ! 何というか、何物なにものにも変えられない、愛の力を間近まぢかで撮るのが大好きなのよ!」


「不審者じゃねぇか……」


「愛の目撃者と呼んでちょうだい! お願い、一枚だけでいいから撮らせて!」


 なんかめんどくさそうなのに絡まれたな……。どうするか迷ってしまった俺は、結愛ゆあの方を見た。


「えっと、私は撮りたいです。尋斗ひろとさんが良ければですけど。ダメですか?」


 結愛は先程までの積極的な態度ではなく、控えめにお願いしてきた。


「まぁ、そうだな。あの、30分で撮り終われそうですか?」


 俺は一応店員に確認した。ジカンマモル、ダイジ。


「プロに任せなさい!」


 そう自信満々に答えてくれたので、信用することにしてみる。


 ということで、本日2回目の撮影いってみようか!


***


「はい、雑念を捨てて! お互いのことだけを考えて!」


 大きなスタジオに、熱のこもった指示出しの声が響く。


 そんなこと言われたって集中できないんだけど……。今の俺の雑念レベルは、おもちゃのトランシーバーのノイズ並みにすごい。


 どうしてって? 今の俺は、ウェンディングドレスを着てる女の子と腕を組んでるんだぜ? これが落ち着いていられるかぁ!!


「二人とも似合ってるよぉ、グへへ。今までで一番きてるわ!」


 撮影は衣装を着てやるって言われたから更衣室に入ったけど、まさか置いてあるのがタキシードなんて思わないじゃん?


「あの、変じゃありませんか? 着てみたいとは言いましたけど、いざ着てみると意外と露出が多くて……」


「大丈夫。すごい綺麗だよ」


 俺は端的に感想を述べた。実際、俺の語彙力ごいりょくでは綺麗としか表現するのとができない。


 その言葉を聞いた結愛は、顔を真っ赤に染めながら微笑んだ。


「嬉しいです! 尋斗さんもカッコいいですよ。お婿むこさんに来て欲しいぐらいです!」


「そんなツッコミどころ満載な冗談言うのは、世界中探してもお前ぐらいだよ」


 俺は笑いながら答えた。


「冗談……なんかじゃないです。学校でも言ったはずです。私は本気で尋斗さんが好きです! だから、いつか私の……私だけのあなたにしてみせます!」


「……」


 こんなこと言われたら誤魔化ごまかせないじゃんかよ。


「はい、笑って! 撮るよぉ!」


 俺が困惑していると、店員が声をかけてきた。ふぅ……なんか助かった、のか?


「いくよ。3、2、1!」


-パシャッ。


「いい感じだよ! 二人ともしっかり笑ってるし、最高!」


「ありがとうございます。俺、いつも写真映り悪いんですけど、どうすか?」


 俺は店員のところへ足を進めようとした。しかし、結愛は微笑みながらうつむいて、その場に立ち尽くしていた。


 撮影のタイミングのせいとはいえ、さっき、ろくに答えてやれなかったからな。落ち込ませちゃったかな……?


「ほら、見に行こうぜ」


 俺はそう言いながら、手を差し出した。すると、結愛はニコニコしだした。


「はい! 行きましょう!」


 俺の手を取った結愛は、いつも以上に元気そうだった。



 改めて俺は思う。こんな素敵な女の子たちに好きになってもらえて、素直に嬉しい。不満なんてあるわけがない。


 ただ、自分が彼女らに釣り合わなさすぎる……と。

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