第29話「重いとか言わないでくださいね!」

「やっぱりこれがいいです! やりましょう!」


「いや、さすがに無理があるってば!」


 結愛ゆあは俺の肩に手を添えて、背伸びをしてきた。こいつ本気マジだ……!


 なんで? なんで俺は女の子にキスをせがまれてるの?!


ーパシャッ。


「ほら、尋斗ひろとさんが覚悟を決めてくれないから、変なところで撮られてしまったじゃないですか」


「そんなの決められるわけないだろ!」


 完全に諦めさせるのは、まず無理だろうな……。


 なにか妥協点だきょうてんを見つけるんだ。今までみたいに、上手く避けて通る方法を!



 ……今の俺が限界まで頑張ってできること。それは間違いなくお姫様抱っこ! キスとお姫様抱っこ……どっちで撮るか……。


 うん、圧倒的後者あっとうてきこうしゃ!!


「結愛、ここはお互いに一歩ひこう。お姫様抱っこで撮るということで、手を打たないか」


「うぅん、それだとかなり変わってくるような気が」


「いいじゃん! お姫様抱っこ! 俺憧れちゃうなぁぁぁ」


 何言ってんだこいつ。頭おかしいんじゃないの? ……あぁ、これ俺か。


 頼むよぉ。この他に妥協点なんてないんだよ。


 結愛はしばらく考えるようにしてから、話し始めた。


「わかりました。今回はそれで撮りましょう」


「ありがとう、マジでありがとう」


 結愛は少し不満気な表情ではあったが、一応納得はしてくれたみたいだ。


「それじゃあ、はい」

 

 俺は腕を前に出して、少しだけしゃがんだ。


「重いとか言わないでくださいね!」


「そういうところには気をつかえる男だから安心しとけ」


 彼女は、そう恥ずかしがりながら告げて、俺の腕の中にすっぽりとハマった。


 こいつ予想以上に軽い。というか軽すぎる。これで体重を気にしてるって、女子高生はどんだけ減量に命かけてるんだよ……。


 

 その後、俺たちはお姫様抱っこで三枚ほどプリクラを撮った。


「最後の一枚ですから、とびっきりの笑顔で写ってくださいね!」


「おいおい、写真写りが学年一悪いことで定評のある俺だぞ。小さい頃から写真イコール黒歴史の俺にどうしろと」


「それじゃあ、私の力でなんとかしてあげましょう! 人に見せたらきっと羨ましがられるような一枚にします!」


「じゃあ、頼むわ」


 羨ましがられる写真ってなんだよ。


 でも、確かにこんな可愛い子をお姫様抱っこしてたら、男子どもにはうらやまし……いや、うらめしいと思われそうだな。


「はい、尋斗さん! カメラ真っ直ぐ目線です!」


「お、おぉ」


 えっと、カメラはあそこか。正面向いて笑えばなんとかなるってことなのかな?


 俺は言われた通り、カメラ目線でその瞬間を待っていた。


 ジリジリと迫る撮影の一瞬には、今まで感じたことない緊張感があった。生まれて初めて、こんなに真面目に写真撮ろうとしてるわ。


 そして時はきて。


-チュッ。


-パシャッ。


 撮影の合図となる音。それと同時か、ギリギリ寸前に俺の頬に何か当たるのを感じた。


 まさか、する場所が違うとはいえ、ホントにしたのか……? そう思いながら、ゆっくりと結愛の方に視線を向けた。


 そして俺の視界に入ってきたのは、はにかみ笑いをしながら、唇に手を添えている結愛だった。

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