第28話「ちゅうぷりって何ぞや?」

「すごい! 沢山ありますよ!」


「そうだな……」


 あぁぁぁ、圧倒的デジャブ! デジャブというか、この光景をバッチリ記憶してあるんだけど!


 まさか1週間もしないうちに、またここに足を踏み入れることになるなんて。


「どれがいいんですかね?」


「あの当店イチオシって書い……いや、待て」


 前に咲良さくらと来たときは、あの機械でプリクラを撮ろうとして、ガイドからひどい仕打ちを受けたんだ……。


 だとしたら、他の機械にした方がいいな。


結愛ゆあ、あの最新って書いてあるやつにしよう」


「わかりました!」


 俺は『最新機器』と書いてあるものを指差した。とりあえず、これなら大丈夫だろ。


 俺は安心しながらコインを投入し、撮影をするスペースに入った。


「思ったより大きいんですねぇ! なんかワクワクしてきます」


「そうだな。おっと、あと30秒で撮られるから、なんかポーズ決めよう」


「ポーズですか? それじゃあ、腕を組みましょ!」


 そう言うと、結愛は腕と腕を絡めてきた。


「ちゃんと笑ってくださいね!」


「お、おぉ」


 なんて積極的なんだ……。いろいろ戸惑っちゃうなぁ。



ーパシャ。


「次はどんなポーズにしますか?」


 一枚目を撮り終えると、結愛はすぐに聞いてきた。その目はまるで、お年玉をもらう時の子供のように期待で満ちあふれていた。


「画面にガイドみたいなのあるから、そこから選んでみるのはどうだ?」


「そうしてみます!」


 今回の台は変なのないだろう。そう決め切っていた俺は、ポーズは結愛に任せてボーッとしていた。


 

 しばらくしてから、結愛が俺のワイシャツのすそをツンツンっと引っ張って、話しかけてきた。


「えっと、この……チュープリってやつ、やってみたいかもです……」


 結愛は顔を赤くして、あたふたしながら言った。


「ちゅうぷりって何ぞや?」


 初めて聞く単語だ。もしかしてエモーションをエモいって言うのと同じで、略語りゃくごなのか?


 ちゅうぷり……ちゅうに浮くプリン? なにそれエモい。


 って、そんなわけないよな。それだと物理法則を破っちゃってるじゃねぇか。


 俺は画面に表示されている、ちゅうぷりというのを確認した。


「……」


「えっとえっと、ダメ、ですよね……?」


「まぁ、これは俺の心臓がちょっとね……」


 この瞬間、俺の中では驚きと焦りと、プリクラに対しての更なる恐怖心が渦巻うずまいていた。



 チュープリって、キス(チュー)しながらプリクラ撮ることなのかよぉぉぉぉぉぉぉ!

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