第27話「それでは、いきます!」

「わぁぁ! 尋斗ひろとさん、尋斗さんっ! たくさんありますよ!」


 ゲームセンターに着くと、結愛ゆあは小さい子のようにはっちゃけた。


「どれからやればいいんですか?」


「うぅん、景品を取りたいのか、メダルとかリズムゲームで遊びたいんだか」


 結愛は周りの機械に興味津々で、俺の話なんか聞いてはいなかった。どんだけ楽しみなんだよ。


 まぁ、こんなに楽しみにしてんだったら、それに答えてやるのが男ってもんか。


「よし、結愛! こうなったら結愛がやりたいやつ、片っ端から全部やるぞ!」


「いいんですか?」


「せっかく来たんだから、俺だけじゃなくて、二人で楽しもうぜ!」


「ありがとうございますっ」


 結愛はそう大きな声で言いながら、俺に抱きついてきた。


「おい、人多いんだからやめてくれって……」


「いいじゃないですか。なんですから!」


 これを言われるとあんまり言い返せないな……。はぁ、今だけは大目に見ることにするか。


「そんじゃ、最初はクレーンゲームからだ」



 俺たちは、クレーンゲームがメインとなる区画に足を運んだ。


「この中から、自分が気に入ったやつを取るん……」


「あれです! あのぬいぐるみが欲しいです!」


「決めるの早すぎだろ。……まぁいいや。そんじゃ、やってみるか」


 結愛が狙うのは、箱に入っているクマのぬいぐるみセットだった。


 そこまで難しいとは思わないが、逆に簡単に取れるとも言えない難易度の台だ。


「それでは、いきます!」


 結愛はコイン投入口に一万円札を入れ……一万円札?!


「待て! それ一万円札飲み込まねえから。百円か五百円だから」


「あ、すみません……」


 結愛は一気に顔を赤くしてしまった。ホントにゲーセン来たことないんだな。


「いや、初めてなんだし仕方ないよ。気を取り直してもう一回だ」


「はい!」


 結愛はコイン投入口に五百円を入れた。初見で五百円か……。


「これで、右。次に奥に……あっ、外れてしまいました。これ、本当に取れるんですか?」


「何回かに分けて、上手くずらすんだよ。やってるうちにコツが掴めてくると思う」


「わかりました。頑張ってみます」


 結愛は再びクレーンを見つめて、操作を始めた。


「あぁ!」「ここです!」「惜しかったのにぃ」


 色々頑張っているようだが、どうも上手く取れないようだった。


「少し交代してくれないか? お手本を見せるよ」


「お願いします……」


 結愛はかなり落ち込んでいる様子だった。そんなにこのぬいぐるみ欲しいのかな?


「ふぅ、集中だ」


 箱の側面そくめんふたの隙間……あそこにアームの爪を刺す!


 俺は慎重にボタンを押す。


 よし! かなりいい位置に落下したぞ。あとはアームを閉じるタイミングを。


「ここだぁ!!」


 フッ……これは決まったな。


ーガタッ


「すごいです! 本当に取れるなんて!」


「やっぱり、これは慣れだからね」


 俺はそう言いながら、景品のぬいぐるみを差し出した。


「いいんですか?」


「俺が持ってても仕方ないだろ」


「ありがとうございます。初めてプレゼント、ですね!」


 結愛はとびっきりの笑顔でそう言った。なんか直視できない……決して照れてるわけじゃないぞ!


「そんな大層たいそうなものじゃないけどな」


「いえ、素敵なプレゼントですよ。大事にします」


 ぬいぐるみの入った箱を抱きしめている結愛は、正直なところ彼女感が半端なかった。


 だがリアル彼女ではない! なにこの摩訶不思議まかふしぎな状況。


 俺が頭の中で色々考えていると、結愛は次にやりたいものを見つけたようだった。


「尋斗さん、あれがやりたいです!」


 指差した方向にあるもの、それは例のアレだった。


「あれが噂に聞くプリクラですよね!」


『いいや違うよ。プリクラはここにないから諦めようね!』なんて事を、この笑顔を前にして言えるわけもなく……。


 また、プリクラなのか……。

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