第20話「まさか。腐れ縁ってやつだな」

「お前、職員室に行ってたんじゃ……」


「書類の提出が終わったからお昼食べにきたの。まさか……あの子の他にも女がいたなんて」


 待て、落ち着け。何もやましいことはない。ただ、カレーをあーんしてもらっただけだ。


 考えてもみろ。喫茶店で女子同士が食べ合いっこするだろ? あれがちょっと変わっただけだ。ホント……うん、ホント違うな。


「とりあえず話を聞いてくれ、友李ゆり


「イヤよ。何されるかわかったもんじゃないし」


「いやいや、お前に何をしろってんだよ? そんな物好きそうそういねぇよ」


「っ……うるさい!」


 顔を真っ赤にして叫んだ友李は、俺の足を蹴ってきた。


「もう知らない! ヒロくんが女に捨てられて私に泣き付いたって、許してあげないんだからね!?」


 友李は、最後にそう言い残して走り去ってしまった。……ややこしいことになると面倒だし、そのうち説明しておくか。


尋斗ひろとさん、あの方とは前からお知り合いだったのですか? 今ヒロくんって」


 俺の正面に座る紫陽花あじさいは、目をキラキラさせながら聞いてきた。


「あぁ、幼馴染なんだよ」


「なるほど。もしかして、お付き合いしてたり……とか?」


「まさか。腐れ縁ってやつだな」


 俺は友李との関係を説明しながら、さっき蹴られたところをさする。


 あの暴虐ぼうぎゃくでドSな女に蹴られたのに……全く痛くない。


 あいつ、調子でも悪いのか?


「……さん、尋斗さん。聞いていますか?」


「ん、ごめん。どうした」


「私、あの人と仲良くなりたいです! 尋斗さんの昔の事とか、知れるかもしれないですし」


「あぁ、そうだなぁ……今日の帰りにあいつと買い物行く予定なんだけど来るか?」


「行きたいです!」


 紫陽花は身を乗り出して答えた。そんなにあいつと仲良くなりたいのか。


「あ、咲良もいるけど大丈夫か? 色々あるみたいだし」


「私は大丈夫ですよ。それより、その分なにかお礼をさせてください」


「いや、こんなのでお礼する奴なんて普通いないぞ」


「いいんです! 何かないのですか?」


 紫陽花は頬を膨らませてそう言った。何だろう、すごい庇護欲ひごよくが……って、いかん。これじゃあ紫陽花ファンクラブのやつらと変わらんじゃないか! 気をしっかり持つんだ!


 お礼ねぇ……あることにはあるな。


「一つだけお願いしたいことがある。友李とだけじゃなくて、咲良とも仲良くなって欲しいんだ。あいつ友達作ろうって、色々頑張ってるんだよ」


「わかりました! 尋斗さんのお願い、全力で叶えます! それから、これは私のワガママなので、どうしてもとは言わないのですが……名前で呼んで欲しい、です」


 紫陽花の言葉は少しずつ少しずつ小さくなっていって、言い終わったときには顔が真っ赤になっていた。


「えっと、……結愛ゆあ、でいいのか?」


「はい! ありがとうございます!」


 それからのあじさ……結愛は、とてもホワホワした雰囲気だった。


「それではお先に失礼します。放課後、クラスにお迎えに行くので!」


「わかった。またあとでな」


 鼻歌まじりで歩いて行く結愛を見送り、俺はあることに気づく。



 咲良に友李、そして結愛と一緒に買い物……あれ、なんかこれ、遊び人感がとんでもないことに……。

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