第19話「ん……わかった。いただきます」

「やっと昼休みかぁ……」


 午前の授業が終わり、朝ドタバタしていて昼食を買っていないことに気づいた俺は、購買こうばいに向かうことにした。


平良たいらくん、お昼……一緒にどう? いえ、一緒に食べてあげてもいいって話なんだけど」


「悪い、今日は購買で買って食べてくるから。また今度な」


「そ、そぉ……別に、気になんかしないし……早く行けば……」


「ちゃんと帰りに埋め合わせはするから。そんじゃな」


 咲良さくらからの誘いをスマートにお断りした俺は、校舎の一階にある購買兼食堂こうばいけんしょくどうのスペースへ足を運んだ。



「麺にするか、揚げ物にするか……でも、カレーもいいよなぁ」


 3分ほど券売機の前で葛藤かっとうを続けた俺は、悩みに悩んだ末、ラーメンを食べることに決めた。


 

 えっと……よし! 窓側の1番端っこ、俺のお気に入りの席が空いているではないか!


 俺は早足で席に向かい、熱々のラーメンを食べ始めた。



 学校の食堂でこのクオリティの高さ……!


 なんて美味さなんだ! 魚介ベースの醤油スープは、中太の麺によく絡み、口に運んだ瞬間、その豊かな香りが広がる! 


 食券を出して、並んでいる時に気付いたのだが、器そのものがあらかじめ温めてあって、手元に届いたときに冷めているということがないのだ。


 ……食堂のおばちゃんの愛を感じる……おかしいなぁ、目から汗が。


 心の中で五つ星を付けていると、突然声をかけられた。


「あの、相席よろしいですか?」


 他にも席は空いてた気がする。そう思いながら、俺は声の主の方を見る。


 後ろで結ばれているブロンドの髪。優しさがにじみ出ている笑顔。そして、背後にいる軍隊のような連れ……。


紫陽花あじさい……他にも席空いてるみたいだけど」


 紫陽花結愛あじさいゆあ……俺が1週間ほど前に振った女の子であり、今日のホームルーム後の事件の目撃者……。


「やっぱりダメ……ですよね?」


 紫陽花は悲しそうに、笑ってそう言った。


 そして、後ろの怖い方々は『殺すぞ?』という顔で笑った。


 笑顔にも……色々あるんですねぇ。


「まぁ、俺は構わないけど」


 というかむしろ座ってください。じゃないと俺が殺されちゃう!


「……」


「……」


 何を話せばいいのかわからない俺たちは、ちょいちょい食べつつ、たまに相手の様子を伺うという謎のサイクルを作り上げていた。


「あの……今日の朝の……」


「あっ、へっ!」


 先に仕掛けてきたのは紫陽花だった。唐突とうとつすぎて変な声を出してしまった。


「あのお二人とはどういう……」


「あぁ……えっと」


 何か言い訳を考えるんだ……何か、転入生と、隣の席のやつ以外の説明を……お? ひらめいた。


「えっと、咲良と俺は隣の席で、その近くの席に来た転入生に学校案内してたんだよ!」


「なるほど! でも、なんであのお二人は泣いていたんですか?」


 えっ、そこまで細かく見てたの? えっと、えっと……。


「じ、実は……あの屋上にまつわる怪談話をしたら……泣かせちゃった、へへへ」


 ダメだぁぁぁぁっ! これは無理がある、ありすぎる! 


 バレちゃったよね? チラッ、チラチラ。


「もしかして……」


 妙な間に緊張してしまった俺は、固唾を飲み込む。


尋斗ひろとさんって物知りなんですか?!」


 物っ……えっ? あれ? もしかしてバレてない? えっマジで?


「いや、まぁな。噂話だけど」


「そうだったんですかぁ。てっきり何か揉め事かと思って心配してしまいました」


 紫陽花はそう言って微笑みかけてきた。


 こいつ、心配してくれてたのか。ふぅ……何か、罪悪感が……。


「謎が解けてスッキリしました! さぁ、お昼食べちゃいましょう!」


「おぉ……」


 なんか、すごく悪いことをした気分だ。例えるなら、小さい子を言いくるめて小銭をせしめとるみたいな。


 何だそいつら、蹴り飛ばしてぇ……。


「はい! 尋斗さん!」


「ん?」


「あーんです。何を食べるか迷っていたみたいなので、お裾分おすそわけですよ」


「いや、そういうわけにも……」


 人目があるし。というか親衛隊がすごい目でこっち睨んでる。


「いいんです! 尋斗さん、だから……」


「ん……わかった。いただきます」


 覚悟を決めた俺は、紫陽花の差し出すカレーを頬張る。


「うん。美味い! ありがとな!」


「良かったです!」


「へぇ……何が良かったって?」


「やっぱり、野菜がしっかり溶け込んでるところかな」


「あの……」


「あーんしてもらったのは関係ないわけ?」


 ん? 紫陽花さん急にキャラ変した? というか、なんか一人増えてる?


「ねぇ、尋斗。ちょっと詳しく話を聞きたいんだけど?」


「あ…………」


「あなたは転入生さんですね! はじめまして」


 そこに立っていた転入生さん。そう、ドS女王の友李ゆりが、目の前に君臨していた……。

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