第21話「でも、皆さんにはナイショ、ですよ?」

「それではまた明日。さようなら」


 担任の女教師の話が終わるのと同時に、俺たち生徒は放課後という自由を迎える。


 そんな哲学的な言い回しをしてみた俺の本日の放課後の予定。


 学校で1・2を争う美少女二人、そして転入早々学校で3番目に可愛いと噂されはじめた幼馴染を連れてお買い物……。ふっ、所詮鳥籠の中の自由なのさ……。


 そして残念なことに、俺は何か大義名分たいぎめいぶんがあって買い物に行くわけじゃないから、訳を知らない奴からしたらただの女たらしにしか見えない……。


 俺は心の中で、発狂やら言い訳やらごちゃごちゃ考えながら、席を立ち上がった。その瞬間……。


右で……。


平良たいらくん!」


前で……。


尋斗ひろと!」


さらに廊下から……。


「尋斗さん!」


「「「デートに行きましょう!!!」」」


「あっ……うん」


 いや、声かけてもらえるのはいいんだけどさ……教室でその言い方は……。


「お前らぁぁぁぁ! 平良がラノベ主人公みたいな事してるぞぉぉぉぉ!」


 ほら! 男子が反応しちゃった!


「尋斗……お前は女に手を出さない、人畜無害じんちくむがいなヘタレ系イケメンだと思っていたのに……見損なったぞ!」


「それ泣きながらいうことか?!」


「イケメンにだけこんなことがあっていいのだろうか……? いな! 尋斗、貴様には死をもってつぐなってもらうぞ」


「待てお前ら! 話を聞け!」


「問答無用!」


「皆さん待ってください!」


 俺が男衆おとこしゅうに担がれたところで、結愛ゆあが声を上げた。


「尋斗さんは、私たちのために付き添いできてくれるんです。親睦しんぼくを深めようと思ったのですが、女の子だけでは物騒だと思ってお願いしたんです」


「紫陽花さん……。そういうことだったんですね。尋斗、悪かったな」


「いや、別にいいよ。とりあえず下ろしてくれ」


 どうにか処刑をまぬがれた俺は、色々言い訳をして、教室から出ることに成功した。


「それじゃあな」


「おう!」


 そう言うと、男子諸君が笑顔で俺たちを送り出してくれた。


 しばらく歩いてから、付いてきてないよな? と思った俺は教室の方に振り返った。


 誰も付いてきていなくて安心したが、教室にいるあいつらが笑顔で中指を立てているのが見えた。おまいらの美少女への執着しゅうちゃく怖いお。


 そんなことを思いながら歩く俺に、結愛が耳元でささやいてきた。


「初めて嘘をついてしまいました」


「お前、どんな教育受けて、どんな生活をしたらここまで嘘をつかずに生きてこられるんだよ……」


「私にもよくわかりませんよ。でも、こうすればあの二人も、私が一緒にお買い物するのをそう邪険じゃけんにすることはできません」


 なるほど……。そんな思惑おもわくがあったのか。


 たしかに、結愛が俺を助けなければ買い物に行く計画そのものがなくなっていたわけだし。……こいつ、中々やるなぁ。


「というか結愛……ちょっと近くないか?」


「そうですか?」


 結愛は子犬のように首をかしげた。さっきから胸あたってるし、超いい匂いしてるし、吐息が耳にかかってるし。


 要するにサイコウ……じゃなくて、いろいろ戸惑ってしまう。


「私は、振られたからってあの二人に尋斗さんさんを渡す気はありません。絶対に、見惚みとれさせてあげますから……!」


 結愛は、蠱惑的こわくてきに俺の耳元で囁いた。やばい、ドキドキしてきた。


「でも、皆さんにはナイショ、ですよ?」


 彼女はそう言い残して、二人のところへ行った。俺の理性が持ってくれてよかった……。



 本当に、今日の俺はラノベ主人公にでもなれてしまうんじゃないだろうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る