第11話

 テレビ界、映画界にそっぽを向かれた幸子を、須藤は出版界に売りこんだ。

 世はヘアヌードブームに沸いていた。

 ついに来たか。

 幸子は覚悟した。どうせ見知らぬ男たちに好きにされた体だ。いまさら写真をとられ配られることぐらいどうってことない。

 しかし、意外なことにこれに母が猛反発した。

「幸子はこれからテレビや映画にどんどん出る可能性がまだあるんです。この子はまだ若いんですから」

 馬鹿なことを。

 須藤と幸子はそう思ったが(二人の意見はこんなふうによく一致した。搾取する側とされる側にもかかわらず)、狂うように騒ぐ母が面倒で、写真集はあきらめた。

 須藤も幸子も、このころは諦めることにすっかり慣れていた。

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