第12話

 すべての世界に締め出された幸子は、それから数年は何もしていない。

 須藤がいたりいなかったりする事務所と、古くなっていく団地を往復し、街でナンパされればときどきセックスをした。

 そんな幸子に須藤が「最後のお願い」をしてきた。

 須藤が幸子を連れ込もうとしたのは、AVの世界だった。

 幸子はさすがにこれは拒否した。

 もう芸能界はいい。

 この男を養い続けることも限界だ。

「社長、もう辞めさせてください」

 須藤はこちらを見ない。

 幸子は古びた事務所の中を見回した。馴染みはあるが、ここを懐かしいと思うことはないだろう。

 事務所の中は荒れていた。

 整理されてない机の上には、実現されなかった企画書の山があふれて、床にこぼれている。

 来るたびに様子が悪くなっている(須藤が暴れているのかもしれない)事務所は、自身の容姿の劣化を表しているようだった。

 クロスがはげてコンクリートの肌がむき出しになっている壁からは、冷気のようなものが漂っている。

 なんだか、おどろおどろしい。

 霊感みたいなものからは縁遠い幸子でさえ、そう感じた。

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