白昼の刺客

 またかですか――。

 小さくため息をつく。


 どうせまた、相手は第二・六・七王妃あたりに雇われたのだろう。

 刺客は生徒に変装し正面から、ナイフで一突きにして来る。


 チートスキルで動体視力も運動神経も上がっている私からしたら、見てからの回避も余裕の強襲だった。


 ただ。


 「お姉さま危ない!」


 危険を察知したオルゼリアが身代わりになろうとすることまでは予測ができていなかった。

 こんなこと前にもあったような――。

 そう思いながら仕方なくオルゼリアにかぶさる形で刺客に背を向けた。


 スーっと、ナイフが背後から流れるように刺し込まれる。


 「くっ、うぅ……!!」

 「お、お姉さま!?」

 「だ……、大丈夫です。このような痛み箪笥たんすの角に小指をぶつけたようなものですから……」

 「た、たんす……?」


 因みにこの世界に箪笥と言う言葉は無い。クローゼットはあるが。

 余談ではあるが前世の記憶を取り戻してからというもの、この世界には無い言葉を度々口にしては、周囲に疑問を与えていた。気を付けなければ。


 ともあれ――、今のは咄嗟にそうなるほどには痛かったのだ。

 驚きはしたが、私は、すぐさま息を整え呆れた顔で振り返る。


 もう慣れてしまったのだ。このような事は。


 「はぁ……、また貴方たちときたら……。今のは少し痛かったと申しておきましょうか」


 おしとやかな笑顔でそう言って軽く肩を鳴らした。


 「何ぃ!?」


 暗殺者は取り乱す。即効性の猛毒が効いている様子が全く無いからだ。


 それもそのはず。

 私は度重なる暗殺未遂にあい、転生の影響で強化された身体能力もあってか毒に対してはある程度の耐性を持つほどになっていた。もはやこの程度の毒では痺れすらしないのだ。

 

 嬉しくも無い長所に感謝しながら、私は、暗殺者の前に立つ。


 「お、お前は今毒を!」

 「それがどういたしまして?それより貴方こそ、神聖な学び舎にこんな物騒な物を持ち込んで危ないではありませんか」


 おもむろに左手で背中からナイフを抜くと、もう片方の手を刺客の方へかざした。


 「私を狙うのはいい加減止めて頂きたいのですが……、少しお灸を据える必要がありそうですね」


 そう言いつつ、手のひらの前には円環の光の紋様、魔導紋が展開されていく。

 この魔導紋より魔術師はこうして魔術を発動させるのだ。

 

 煌々と光の円環は輝きを増していく。


 「あ、あああ……」

 「ブラスティア・ボルト」


 その瞬間、紅く煌めく炎の弾丸が流星の如く、暗殺者目掛けて放たれた。


 ドオオオオオオンッッッ


 と、鈍い小さな地鳴りを伴う爆発と共に刺客の身体は宙に投げ出され、間もなくして地面に叩きつけられる。


 手加減はしたものの地面が衝撃で抉られていた。


 周囲の生徒は一瞬の出来事にただ身体をこわばらせる事しかできないでいた。


 また、やり過ぎてしまいました――。


 少しの沈黙の後。


 「ヴァ、ヴァルロゼッタ様がまた学院をお救いになられたわ!!」


 誰かがそう叫んだ。


 伝説はまた一つ増えたのだった。

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