転生者、異世界にて覚醒す

 あれは、夢では無かったのか――。

 自室のベットで目が覚めて、まず初めにそう思った。毒を盛られたのにも関わらず生きていたのだ。それもそのはず。


 わたくしは、異世界転生者なのだから。


 昨日の夕食での一件。意識が途絶えた後、私は暗い空間にいくつもの映像が流れる窓のある部屋にいた。勿論これは、現実ではないことがすぐに分かった。


 ああ、これは私の前世の記憶だ――。見覚えのある光景に急に懐かしくなる。すると自分の中に『霧ヶ矢佳奈子』の記憶と人格が溶け込んだ。そんな感覚だった。

 

 これこそが神様の言っていた“覚醒”ということなのだろうか。


 随分と想像していた転生と違っていた。どうやら、赤ん坊や物心ついた時から『霧ヶ矢佳奈子』として自我が芽生えるわけではないようだ。

 感覚としては『ヴァルロゼッタ・ベル・ロザリオ』に『霧ヶ矢佳奈子』の記憶が紐づけされていくようなそんな感覚だ。


 思い返せば、なぜ自分が異世界転生者であると気づかなかったのか自己嫌悪におちいる。

 体力測定や魔力測定で常人ならざる記録を出して、このぐらい普通ですよね?と周りの空気を読まなかったり。

 上級魔術を使ってやり過ぎて教師たちを驚かせたり、自分だけ複数の魔術を同時に使えたり……。

 どこに出しても恥ずかしくない無自覚系主人公ムーブで黒歴史製造機と化していた過去の自分を思い出し、顔が赤くなる。


 恐らく自分の身体は、転生得点と言うもので色々強化されているのだ。とは言え、不確定要素が多すぎる。

 何ができて、何ができないのかしっかり把握したい。

 もしかしたらステータスなんて言ってみたら、案外簡単に表示できるのかもしれない、後で試してみようかしら。

 

 あれ、まだ何か忘れているような――?


 それにしてもやってくれたなあのじいさん神様!確かに強い人間になりたいとは言ったがこうゆうのじゃない――!

 私は断片的に記憶に残っている転生の神に、心の中で毒づいた。


 おそらく、いくら転生得点でも本人の心の中までは、直接どうこう出来ないのだ。


 つまりあの老人の思惑は恐らくこうだ。転生得点でチートスキルを与えて王国の姫君にしてやるから、王位継承争いでその心を鍛えて心身ともに強い人間になりなさい、ほっほっほ。というわけだ。


 「どう受け取れば、そーうなるの!?」

 

 天井に向かって叫ぶ。


 一息ついて。


 「ふふふ……、良いでしょう。このヴァルロゼッタ・ベル・ロザリオ必ず生き残って見せてあげましょう」


 一人ベット上でそう不敵に微笑むのだ。

 

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