魔女の一撃

 瞬間。

 砂煙の中より、二本の木製の剣が時間差で一閃を描いて飛んでくる。


 「――っ!?まさか避けて?ブラスティア・ボルト!!!」


 完璧な奇襲だった。

 しかし、チートスキルで五感を研ぎ澄まされた私はすかさず対応。

 対空砲火で二本の剣を迎撃する。


 これを狙って――!?でも、それじゃ丸腰に……。

 彼の持っていた武器は木製の剣二本。それも今の投擲に使用された。


 「!?」


 シュバッと、


 迎撃した剣の陰から更にもう

 弾丸の如く迫りくる。


 「くぅ、お、重い!?」


 寸でのところで何とか手持ちの剣で切り払う。

 オズさんは始めから三本の剣を持っていて、それを一本だけ隠していたのだ。


 な、なんてペテン師――!

 私は、自分が勝手に油断した事が悪いと思わなくもないが、とりあえず心の中で非難する。


 でも今度こそ――。


 安堵あんども束の間。今度は無数の礫が乱れ飛んでくる。


 「て、ええええええええ!?」


 困惑しながらも、そのすべてを見事な剣さばきで迎撃した。


 「――そんな武器は渡された物だけなのでは!?」

 「そうだぞ、オズ!卑怯だぞ!!」


 野次馬の方々も私に味方をする。


 「ふふふふ……、卑怯?戯けが。それは、武器ではない。貴様が今し方吹き飛ばした煉瓦れんがの破片だ!!!」


 砂煙が晴れ、腕組をしたドヤ顔のオズ青年が現れる。


 「それに“武器の指定以外は”。……そうだよなぁ?ウォルフさん!」

 「ああ……、そうだぜ!!」

 「ふん、貴様。どうせ遠距離の勝負なら楽勝だとでも思ったのだろう?」


 彼らは邪悪に笑う。


 「まさかこれを狙って!?」

 「ふふふふ……」

 「くくくく……」

 「でも、そこまでして私に傷一つつけられていませんが……?」

 「ふふふふ……」

 「くくくく……」


 あ、これは目論見もくろみが外れた的なやつでは――?


 「ブラスティア・ボルト。」


 無慈悲にも私はすぐさま魔術を放った。

 誰もがその瞬間、私の勝利を想像する。


 そう、彼以外は。


 「ちっ」


 炎の弾丸は、彼の目の前で跡形もなく消滅したのだ。


 「え!?そ、そんな……」

 「こんな“力”に頼らなければ異世界転生者きさまらの相手も出来ないとはな、つくづく嫌になる」

 「どうして……」


 まさかの信じられない光景に、言葉を失う。


 「貴様。異世界転生者の癖に鑑定系の魔眼も持っていないのか。俺の魔導資質を視てみろ」

 「え?」


 魔導資質とは、その人物の魔力保有量、使用可能な魔術の種類、特殊技能スキルのことを指した。

 異世界転生者わたくしが持つ、鑑定系の魔眼では、そういった魔術の才能をステータスという形で視覚的に把握できるのだ。確かに、私は鑑定系の魔眼を有してた。


 しかし、何故そのことをこの方が――?

 気が動転していたため、私は深く考慮もせずに言うとおりに行動していた。


 すかさず、右目の魔眼でオズさんの魔導資質を視る。


 「分析オールスキャン


 ――!?


 「阿呆が、敵の言葉にわざわざ耳を傾けるなど愚の骨頂!異世界転生者、敗れたり――!」

 「――、しまっ」

 

 一瞬。


 魔眼を使うことに気をとられた隙に、完全に距離を詰められていた。


 反射的に剣で応戦するが、その一閃は紙一重でかわされて、組み付かれる。

 すかさず。足払いをして体制を崩そうとするが、


 「甘いわぁ!」


 するりと身体を反らして対応される。尋常じゃない素早さ、まるで獣を相手にしているようだ。

 たまらず、後ろ側へ踏み込んで回避を試みるも、読んでいたかのように回り込まれる。

 そして、がら空きになった側面より、


 「秘儀!必殺ひっさぁつ!!魔女の一撃ヘクセン・シュートオオオオオオオッ!!!!!」

 

 魔力の込められた拳が、腹部のライトプレートごと打ち抜く。

 小さくパリンっという音がした。


 「早っ、きゅうううぅぅぅぅ!??」

 

 拳の入った部分はプレートが歪んだ程度、所詮は凡人相手。いくら魔力を込め威力が増そうとも鎧の上からでは大した損傷にはならない。

 私は、すぐさま体勢を立て直し、反撃に出ようとする。


 ――?あれ。力が全然入らな――!?


 「あだだだだだだだだだだだだ!!!!」


 得体の知れない激痛に、身体の制御を失った。


 「ひっ――、はあははあはあ……」


 不意にオズさんに体重を預ける形で前のめりになる。

 支えられて、やっと立っていられる状態である。


 魔術?いやちがう!


 これは!? 


 魔力を打ち込まれた……?


 相手を一時的に戦闘不能状態にする方法として、自分の魔力を大量に流し込み拒絶反応を起こすといった方法がある。確かに魔術が使えなくてもこの方法なら魔術師を倒せる。

 しかし、それはあくまでも魔力保有量が同格か格下の相手でなければ成立しないはずなのだ。

 そもそも常人の倍もの魔力を保有する異世界転生者の私には通用しない。 


 「わ……、私になにを……、したのですか……!?」

 「さて、何だろうなぁ……。これ以上痛いのは嫌だろう。もう降参した方がいいんじゃないか異世界転生者ぁ?」

 「はあ……、はあ……。で、ですから、私は異世界転生者などと言うものでは……ッ!」

 「まさか貴様、異世界転生者がこのだけと思っていないだろうな」


 ――え?それってまさか……。


 私は、始めから切り捨てていた可能性に気が付いた。


 道理で、そうか。始めからこの方は私をあざむいて、この世界の人間のふりを――。


 極限の状態が、聡明そうめいな私の口を迂闊うかつに開かせる。


 「――、もしかして異世界転生者なのですか?」


 一瞬の沈黙の後、冷めた口調できっぱりと。


 「はぁ?貴様……。会ったばかりの相手に、流石にそれは失礼だろ」

 「ええー!?」

 「それより、“貴方”と言ったな」

 「は!?あわわわわわわわ……」


 簡単な揚げ足取りで、まだ言い逃れできる状況ではあったが、冷静さを欠いていたこともあり、私はまんまとその話術にはまってしまった。

 青年は悪魔のような笑みを浮かべている。が、目は笑っていなかった。


 「ひいいいい!あだだだだ……」


 少しでも力を入れると、身体中に激痛が走る。


 「早く楽になりたいだろう?」


 激痛が走らないように、無言でゆっくりと頭を上下に振る。


 「では、最後の機会をくれてやろう。貴様、異世界転生者だろ?」


 あ、多分これは駄目なやつだ……。


 「は……」


 心の折れる音がした。

 

 「――はい……、私は……、異世界転生者でずぅ……」


 恐ろしさの余り、色んな汁が出ていたかもしれない。


 事実上の無条件降伏だった。

 

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