異世界転生者の一撃

 「おい、オズ!可愛そうじゃねえか!!負けてやれ」


 私達のやり取りを聞いて、ギルドの仲間がヤジを飛ばした。


 「やかましい!今まで苦楽を共にしてきた仲間だろ、一体どっちの味方だ貴様らは!?」

 「勿論、我がギルドの新たな華。ロゼッタちゃんにきまってるだろ!」

 「気に入らないんなら、てめぇが出ていけばいいだろ!」

 「むぅ!?」


 見たところによると、この場にいるほとんどの人が私を応援してくれているように見て取れる。

 思ったよりもこの方の人望は無さそうで、少し同情した。


 「頑張ってくれロゼッタちゃん、俺たちたんまりロゼッタちゃんに賭け……おっと――」


 野次馬の一人が何やら、口を滑らせかけた。


 「なぁウォルフさん。俺たちの勝敗で賭けとかしてないか?」

 「さぁて何のことかな――、と、細かいことは置いといて、そろそろ決闘を始めるぜ!」


 勘繰かんぐられ、バツが悪くなったウォルフさんは、決闘の開始の催促さいそくをする。


 「あの――」


 流れを止めて申し訳ないと、私は小さく手を挙げた。


 「なんだい?嬢ちゃん」

 「魔術の使用は?」

 「おお、そうだった忘れちゃいけねぇな。武器の指定以外はなんでもありだ。まぁ、オズ坊はそうゆうのは使えないがな、遠慮はいらないぜ!がははははっ!!」


 であれば皆、魔導紋を持っているはずなのに。例え、学校で魔術を学べない様な環境でも、誰しも独学で一つや二つ魔術が使えるのが普通だ。しかし、オズさんはどうやら魔術が使えないらしい。


 その様な人は初めて見た。良くそれで魔物相手の冒険者が務まるのもだ。


 ……って。あれ、この決闘、滅茶苦茶私に有利なのでは――!?


 亜人であれば、魔術が使えない代わりに超人的な身体能力があるのだが、もちろん人間のオズさんには無い。

 人間でも魔力による身体強化は出来るのだが、それも亜人に比べれば大したことのない。


 つまりは、私が劣る点が一つもないのだ。


 と、言うよりもこちらが異世界転生者時点でもう既に――。


 「あー、ウォルフさん!敵に有利な情報を……、さては裏切ったなぁ!!」

 「へへ、オズ坊。勝負ってのは如何に楽して勝つかが重要なんだぜ?そんじゃぁ、両者見合って――、決闘開始!!!」

 「うおおおお、良いぞお派手にやれぇ!」


 一番に声を上げたのは野次馬たちであった。

 辺境の地の刺激の少ない閉鎖的生活では、こういったもよおし物はいつでも大歓迎なのだ。


 「ちっ、どいつもこいつも……、おい、異世界転生者」

 「……何でしょうか?」

 「先手をゆずってやる、来い」


 相手は、悪戯っぽく歯を見せ、古典的な手招きの仕草で挑発をする。


 「あまりそういった態度は感心できませんね……。相手を甘く見ていると痛い目に会いますよ?」

 「ふぅん、構うものか。そもそも俺は、異世界転生者きさまら甘く見てなどいない正しく評価している!常に最悪の事態は想定済みだ。故に、貴様らが空から星を振らせようと、三人に分身してかかってこようと、いささかも驚かん。御託ごたくは良い、さっさと本気で来んか!!」

 「……では、行かせていただきます」


 色々と突っ込みたいこともあったが、この方と話していると狐に化かされているような不快感を感じるので、私はまずこのふざけた決闘ごっこをすぐに終わらせることにした。


 相手の武器は木製の剣二本のみ。二人の距離は約5Crクラン程、私の転生前の世界で言えば約5.5メートル。近接戦をするには、遠かった。

 魔術の使えるこちらに負ける要素は見当たらない。勝負は一瞬で決まるだろう。私はタカをくくった。


 かざす手には既に、魔導式の円環が展開されている。

 魔力が充填されて、輝きが増す。


 「ブラスティア・ボルト!」


 遠慮はしないで良いとの事だったっが、こんなことで人殺しになるのも嫌なので、あくまで良識の範囲内の威力を意識する様に抑える。

 人間相手用の魔術の威力であれば、それ程、暴発しない……、はずだ。


 魔力とマナが反応し、瞬く間に火球が形成され魔力による推進力で放たれる。


 あ……。


 速度は抜群。並の人間であれば回避はまず不可能。

 地上の太陽が如く輝く弾丸がオズさんを目掛け、飛んでいく。


 ドオオオオオオオンッッッ


 間もなく、鈍い地響きと共に着弾し、砂煙が巻き上がった。


 「おいおい……、なんでぃあの威力は……」


 ウォルフさんは、口をあんぐり開いてくわえ煙草を落とす。


 あ――、またやり過ぎてしまった……。

 ドン引きする野次馬たちに、私は少し反省をする。

 幸い、見物人たちは巻き添えになってはいなかった。


 尊い犠牲でした……。

 私は勝負がついたと思い、嫌な相手ながらも、やり過ぎてしまったことを心の中で謝った。骨折くらいで済むといいが。

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