第11話 大事なものを見つけられない。Jag kan inte hitta något viktigt.

僕たちは毎年、夏の中頃から冬の初めぐらいまで、アッレマンス・レッテンを最大限に活用している。(訳者注:自然環境享受権。私有地でもベリーやキノコの採取が可能な個人の権利)要するに、ブルーベリー狩りとキノコ狩りが大好きってことだ。


近所を5分散歩しただけで沢山見つかるブルーベリーを、わざわざお店で買うなんて気が知れないと僕は思う。まあ、お店で売られているのは、アメリカ産の大きな粒でとっても甘い品種のものだけど。


その年によっても違うから一概には言えないけど、スウェーデンの野生ブルーベリーは、粒がとても小さくてビタミンたっぷりでかなり酸っぱい。でもそれがいいんだ。沢山摘んでジャムやパイを作ったり、アイスクリームにしたりと色々バラエティに富んだものが楽しめる。


僕が子供の頃は、手で1つ1つ採ってはつい口に入れてしまうから、いつも帰りには指先だけが紫色に染まってるのに肝心の籠の中は空で、母に笑われたっけ。今はもっと効率的に、ベリー摘み器(訳者注:大きな櫛で救いとり末尾の袋に集める道具)ですくうように摘んで、バルコニーで専用のふるいにかけて萎びた粒や余計な葉などを落とすだけ。簡単でしょ。でもその簡単なことをやる人は案外少ない。特に僕みたいに街中で生活しているビジネスマンとかはね。面倒くさいのかな。


それから、夏の同時期から冬の初めぐらいまでの長い期間、僕たちは様々な種類のキノコ狩りを楽しんでるよ。

時期になればお店でも気軽に買えるアンズダケやトラットカンタレールに限らず、カリヨアン(訳者注:イタリアのポルチーニ茸と同じ種)も時期をずらせばすぐに森で見つかる。


スウェーデン人は、自分の子供にもキノコの生えてる場所を教えないって言うけど、僕も賛成だ。知り合いにちょっとでもキノコ狩りに行ったと口を滑らせてしまったら、どこで見つけたか教えて攻撃で面倒なことになるからね。もちろん、絶対に教えないけど。だって、教えてしまったら最後、僕が採る前に他の人に採られてしまうからね!


でもね。僕はなぜか探し物がとてもヘタなんだ。オー、突然のカミングアウト、ごめんね。

なぜだか本当にわからないけど、目の前にあるものが視界に入ってこないんだ。

冷蔵庫の中のチーズ、ハサミ、栓抜き、家の鍵、携帯電話などなど。携帯電話は家からコールすればすぐ見つかるけど、冷蔵庫の中のチーズは残念ながらコールしても返事をしてくれない。


アキは、それを毎回呆れた顔をして見ている。本当に、呆れているんだよ。だってかわいい顔だもの。僕はめげずに頑張って探すけど、冷蔵庫が〝タイムリミットです。残念でした〟と言って、閉め忘れ用の警告音をキッチン中に響かせる。閉め忘れているんじゃなくて、チーズを探してるんです!


見かねたアキが、まず、人差し指を僕の目の前に突き出す。僕はその指にかぶりつきたい衝動を抑え、頷きながらじっと見ている。すると、クルクル回転しつつ勿体ぶりながらその人差し指はゆっくり移動して、目の前にあるチーズまで僕の目線を誘導してくれる。


うわ、あった。こんなところに。まさに目の前に。ずっと探していたのに。思ってた形とちょっと違ってたみたい。だけどそれだけで、何で僕はこんなに大きなチーズの塊を見つけることが出来ないんだろう?ああ、これじゃアキじゃなくて、僕の観察日記になっちゃうなあ。


で、アキは笑いながら〝見つけるのは私、計算するのはヨウコ〟っていつも言うんだ。

そう、僕は計算なら得意。よくアキが料理をしている時に塩分濃度とかを突然聞いてくる。塩分濃度が必要な料理を作ってるの?って僕は毎回びっくりするけど、びっくりしながらちゃんと即答してあげる。

だから、アキと僕は良いコンビ。アキが見つけて、僕が計算する。素敵でしょ?


話を戻そう。それで、キノコ狩り。

ブルーベリーは本当にそこら中にあるからわざわざ探さなくてもいいけど、キノコはちょっと曲者だ。

白樺の葉が地面に落ちて、キノコが見えなくなってしまう時期まで、アキと僕はせっせと森へ出稼ぎに行く。

キノコは、当たり前だけどそれぞれ種類によって生えてる場所が違う。コケの生えている湿った場所を好んだり、松の木の根元が好きなキノコもいる。

そういう子たちを根気よく探すんだけど、これまた僕は見つけられない。壮大な自然の中から、特定のものを探すのは本当に難しい。走ってる野ウサギならすぐにどこに行ったかわかるのに。


そんな時、アキはニコニコしながらまた人差し指を突き出して、ゆっくり青々しいコケの一部に差し向ける。

その先を目で追っていくと、いつもキノコが所在なさげにしている。アキが指差すキノコは、いつも虫食いもなくて立派なサイズの大物だ。でもアキは絶対に自分で採ってくれない。キノコの籠を持っているのは僕だけだからだけど。


一度、何でそんなにアキはキノコ採りの名人なのかと聞いたことがある。アキは、いつも森に入る前にお祈りをするのだそうだ。森に住んでいる妖精さんたちに、森に落ちているゴミを拾って綺麗にするから、少し私たちに恵みを与えてください、と。本当に森に妖精がいるのかは僕はわからないけど、それで森が綺麗になってキノコが採れるなら何でもオッカルドッカルだ。


アキが森に祈り、キノコを見つける。チーズも見つける。僕がゴミを拾い、キノコを採って綺麗にする。計算もする。料理はアキも僕も両方作る。…ちょっと僕が不利な気もするけど、まあいいか。


採ったキノコは大体その日に食べるけど、沢山採れた時はスライスして乾燥させるんだ。この乾燥キノコでパスタを作ると、キノコの濃縮された旨味が出て本当においしい。

僕はキノコもチーズも何も見つけられなくても、あの時、偶然本屋でアキを見つけることが出来た。グッジョブ、ヨウコ。あの時のことを思い出すと、今でも自分を褒めてあげたくなるよ。


人間は完璧じゃないし、欠けているところはきっと何かで補える。僕はアキに出会って、自分に欠けているものとそれを補ってくれる存在を同時に知った。そして今日も僕は、冷蔵庫の前ですごく済まなそうなフリをして、アキにかわいい指を差し出してもらうんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る