美しい人よ

「美しい人よ」


温室の花は何を願うのだろう

優しく包まれ

存分に愛を注ぎ受け

美しく咲く


その瞳には

果てのある空が映り

羽ばたく鳥の行方を

夢見ることもないのだろう


貴女はまだ知らない

自分がどんな花なのか

けれど想う

温室に咲くことはない


ときに天高く舞い上がり

あるいは海の底を這い踞(うずくま)る

降り幅の広さに翻弄され

しばし立ち位置を失う程に


最上級の脆さと繊細さは

貴女を芯まで傷つけるだろう

刃は抜いても返しても

刃でしかないのだから


視界を覆う黒い闇が

永遠だと思えば永遠になり

光射す前兆と願えば

やがて光の先に辿り着く


暗闇で咲く花はない

光を浴びて開花する

眩しければ眩しいほど

足が竦(すく)むに違いない


けれど進むが良いだろう

深く傷ついた距離と

同じ距離だけ昇ることが出来る

天に近い場所へ行ける


自らの脚で翔び立ち

自らの翼で高みに留まればいい

翼は動かし続けねばならない

骨組みはしっかりと結ぼう


羽ばたき続ける人よ

その姿は他を魅了し

憧憬と嫉妬を浴びながら

より色づくだろう


目指し続ける人よ

ひと箇所に留まらず

描く軌跡に

他は奇跡を見るだろう


美しい人よ

貴女は貴女で在るが故に

鋭くも鈍くも

輝くだろう


美しい人よ

貴女が貴女自身を知り

唯一無二の花を記すとき

世界は貴女を受け入れるだろう


嗚呼、美しい人よ

艶やかに傲慢に咲き誇れ

その美しさの膝元に

私は頭を垂れ跪(ひざまず)こう

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