第19話轟音のみを友とする

すべての神経が信号を発する苛立ちが、あらゆる尺度の絶望が、轢死という無惨な死への渇仰が癒される時を求め、あるいは恩寵の手が伸べられるのを待ちつづけて三十年が過ぎ、この間幾人ものたましいのふたごたちと生を共にし、やがて必然性を伴って引き裂かれる痛みを分かち合ってきた。いや、およそ痛みというものを感じつづけるには無謬の不信が必要で、その純度をできるだけ保たねばならない。音楽が奏でる轟音のみを友とし、完璧無比にありとあらゆるものを破壊する雷雨を待ちつづけねばならない。発雷確率を信じよと命じる。気象庁の予報がことごとく外れる失望とあきらめと、わずかばかりの期待を、延々と百年の間繰り返すことだけを望んでいるのかもしれない。曇りの日がつかの間の安息日となる。いずれにせよ雷雨は来ず、豪雨のみがわずかばかりの間に降りしきる中、聴覚を完膚抜きまでに破壊する工事がはじまろうとするのを、なすすべもなく待ち受けることしかできない。


Dark Steering/Squarepusherを聴きながら

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