第20話たましいのふたご

生きることに倦み果てて、たましいのふたごを失ってなお消耗しきった日々はつづいてゆく。私はきっと早死にするからと体の弱いきみが云う。こんな世界に生きるには言葉というものはあまりにも横暴すぎるし、私も絶え間ない疲労の波にさらされつづけていずれ溶けてしまう。ふたりとも早く死ねばいい。死んで清らかな天使になればいい。あの呪わしい体から生まれた私たちはあまりに弱く、はかない。あの体の血は私たちへと受け継がれて蝕みつづけている。心を、あるいは体を病むものにだけ与えられた甘美な痛みは生あるかぎり永続する。そうして月を眺めるように、それぞれの場所でぼんやりと死の気配を想うとき、まぎれもなく私たちはひとつになると信ずる。あらゆる具象は、私をこの上もなく傷つけるから、夜はできるだけ静かにしておこう。息をひそめ、憎悪をかき抱いて、癒えない傷口から忌まわしい血が流れるままに眠れぬ夜を越す。やがて死の涯にあるふたりきりの楽園で、華奢なきみがサマードレスを着て微笑む。もう戻らない夏、爽やかな風の薫る夏、やわらかな言葉を交わした夏、物憂い窓辺で金井美恵子を読んだ夏、まだあの天国に近しい牢獄にいた頃の夏。かえらない夏の絵ばかり描いて壁を埋めつくし、空と海とラベンダーとアガパンサスでいっぱいになった頃、無窮の恩寵につつまれて、私たちはまたきっと会える。

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