第18話果たされぬ殉教
眠りたくないと云う私に背を向けてきみが出て行ってから一晩が経ち、ヒュプノスによって恩寵として授けられた過眠という祝福に浴したのちに副作用としての希死念慮に苛まれ、昼も夜もなく永遠に暗い部屋には人形だけが敬虔な信徒として眠りつづける。睡魔から逃れるように白くかすむ目をこすって、充血した瞳がいつしか見えなくなったなら、きみの顔も忘れてしまう。輪郭のひとつひとつを覚えているうちに絵にとどめても、フランス人のようなきみの面立ちは記憶の中でどんどん溶けてゆく。あらゆる芸術は詩を残して滅びる。虚空に伸ばした私の手はにべもなく振り払われて、聖母は与り知らぬ顔をして両手を伸べるけれど、異教徒は蛇のようにたやすく踏みにじられる。可憐に咲く百合の花を私も捧げたかった、純白のベールをかぶり、ロザリオをたぐって祈りの言葉を唱えて、聖歌を歌って苛烈な運命に殉じて死にたかった、許されたかった、救われたかった。呪われた異教徒の血が体の奥深くを流れている。門は硬く閉ざされ、ヒュプノスを奉じ、詩神を仰ぎ、自己というもののあやふやさを罪として担いながら、きみの言葉をかなぐり捨てて今日も夜明けすぎまで死の影に囚われている。
都市夫は死ぬことにした/アーバンギャルド を聴きながら
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