第13話 眠り

 暗闇の中で、あたしは水面のそばのらせん階段に腰掛けて上半身を壁にもたせかけていた。


 ひざの上に灯の消えたランタンを大切そうに抱きながら、眠っていた(電池はあとどれくらい保つのだろう? 不安だったから、体を休めるあいだあたしはランタンを消していた)。


 しばらくして目がさめると、ランタンのノブを回し灯をつけた。光の中に周囲がほのかに浮かび上がる。体は少し回復したように感じた。でも立ち上がってみると、足元がふらつき再び階段の縁にへたりこんでしまった。


 背中を壁にあずけてランタンを持ちあげ上の方を眺めた。あたしはちょうどすりばち状のらせん階段の底の部分にいた。足元には、青くて透明な水が静かに照らし出されている。


 妖精フェアリィがそこにいて笑いかけているようだとあたしは思った。あなたは、あたしを助けることができてよろこんでいるのかしら? 首をかしげて水面をしばらく見つめていたが、妖精フェアリィは何も答えてくれなかった。


 これは井戸なの?


 どのくらいの水の深さがあるのだろう? 底の方までは見えなかった。丸い水面の端から端までの長さはあたしの身長の何倍かほどあった。まるで小さな池のようにもみえた。それにしてもこんなにおおきなすりばちの形をした、まるでかたつむりや巻貝のようにくるくると階段が回って降りていく井戸をみるのは初めてだった。


 誰が何のためにここに作ったのだろう? まさかあたしを助けるためにじゃないだろう。あたしはいそうろうなんだ。ちょっとおじゃましているだけだから。少し休んで元気になったらここを去らなくちゃ。

 

 まだもうしばらくは休んだ方がいいのかもしれない。


 あたしは両手で水をすくって喉をうるおした。それから膝を曲げてひざまずき、両手を胸の前で組み合わせると、こんなあたしをここまで導いてくれたお星さまと水の精に、救ってくれてありがとう、でも、もうすこしここにいさせてください、とお祈りをささげた。


 座り直し壁によりかかり、ランタンのノブを回しスイッチを切った。再び取りかこまれた闇の中で、静かに目を閉じた。


 眠りはすぐにやってきて、夢のない世界へとあたしを連れ去った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る