第20話 剛腕 道足恭代

 道足みちたりは電源車を用意するように警備にあたっていた機動隊に要請したが、対応に当たった隊員は、


「あの、隊長からは『何もするな』と命令が出てまして…」

 道足は、その途端あからさまな不満顔に変わる。


「その隊長さんに合わせてくれるかしら?」


「隊長との面会も断るように、と!」


「ほう、この道足 恭代に随分な対応ね」

 と独りごちると、おもむろに隊員の無線機をひったくった。


「おい。誰か聞いているか? 私は東京科学工科大の道足だ。責任者を出せ」

 マリー=テレーズはその男っぽい態度で怒鳴り散らす道足を見て頭を抱えた

 ―― また始まった――


 第六機動隊の隊長、山下 蒼一郎はこの無線を聞いていた。


「あちゃー、やっこさん怒らせちゃったな。仕方ない。俺が出るか。『一応』公安から召集されたセンセイだし」


 山下は無線機のマイクを取り、


「道足助教授、第六機動隊隊長の山下であります」

 道足は勢いそのままに抗議した。


「隊長さん、この仕打ちはどういうことかしら?」


「上の指示であります」


「上とは誰? 具体的に言いなさい」


「上とは、警視総監であります」

 道足はニヤりとした。 


「選択肢を二つあげる。山下隊長。一つ、上を説得しなさい。二つ、黙って電源車を一台差し向けなさい。三十分以内よ!」


「両方とも承知できなければ?」


「隊長さん。警視庁の監督官庁はどこ?」


「警察庁でありますが、それがなにか」


「山下隊長さん。前警察庁長官の名前を言ってごらんなさい」


「み、道足 健彦…」


「分かったらどちらか選びなさい!」


「はっ! 電源車を用意致します!」

 道足はそう言うと、マイクを隊員に返し、


「ありがとう。わたしからマイクを取り返すことなど造作もないはずなのに。あなたにお咎めがないと良いけれど」


「助教授、その節にはどうか前長官にご慈悲を頂きますようお伝えいただければ」

 道足は、軽くウインクをした。


「先生、どうやって恫喝してきたんですか?」


「あら失礼ね。マリー=テレーズ。私、前警察庁長官の名前を言ってごらんなさい、しか言ってないわよ」

 巧妙に話を振ったが、実のところ道足の父は、政治家でも警察官僚でもない。単なる偶然だ。


「またやりましたか。さすがエゴ…いえ」


「マリー=テレーズ。やっぱり名前の由来はそれかしら?」

 マリー=テレーズは隠れて舌をだしていた。



 暫くして、――果たして電源車はやってきた。


 マリー=テレーズは三相電源のワイヤを舌なめずりしながらE.G.o.I.S.T本体に繋いだ。


マリー=テレーズは、E.G.o.I.S.T.を電源車につなぎ、カートリッジの様な筒状の物体を本体に収めた。


 また、一方ではE.G.o.I.S.T.にはアクションカメラが付属されており、ケーブルでモニタにも接続されている。PCに録画することができる。


「先生、強い電磁波が出ますよ。そこに電磁波をカットするジャケットとゴーグルがありますから着用して下さい」


「マリー=テレーズ。ありがとう」


 道足は早速ジャケットを着込んだ。


「でも、このジャケットもマリー=テレーズのデザインでしょう? 本当にセンスがイマイチよね」


「聞こえてますわよ。先生」


「あら、聞こえるように言ったのよ。ほほほ」

 すると先ほどの機動隊員が、


「助教授、一体この機械は何なんですか?武器だとすると、私たち先生達を逮捕しないといけないもので…」


「武器?あなたにはこれが武器に見えるの?」


「ええ、いわゆるロケットランチャーと言うものに見えます」


「マリー=テレーズ! 良かったわね! これ、武器にみえるらしいわよ!!」

 喜んで鬼の首を取ったようにきゃっきゃとはしゃぐ道足。


「で、これは何なんです?」


「これは霊体を電磁波を使って感知する装置よ。武器の類ではないわ」


「そうでしたか。それなら安心…」


 と言った刹那、トリガーをマリー=テレーズが引くと凄まじい音が出て、E.G.o.I.S.T.から光線が「闇」に向かって放射された。


「じ、助教授?本当に武器じゃないんでしょうね?」


「ほら、ごらんなさい」

 道足が顎でしゃくった先には、「闇」が ー 闇の内部が可視化されていた。


 ほらごらんなさい、と言いながら、自分でもビックリして、道足はまたあの台詞を吐いた。


「なによ、これ」

 道足の両目には、八つの頭を持つ大蛇が映っていた。


「ほら! 先生! 私の言った通りでしょう? しかし先生の驚き方ってワンパターンですね?」


「マリー=テレーズ! 凄いじゃない! あなたが言った通り、本当に居たのね! ワンパターンは余計なお世話だけど!」


「先生、先生がスポンサーを見つけてきてくださったからE.G.o.I.S.T.が作れたんですよ」


「ちゃんと映像は撮れているかしら?」


「後でチェックします!」

 まだ1/5ほどしか経過していない二十一世紀ではあるが、これは世紀の発明と言っても差し支えないだろう。


 その横で、慎一達三人がこれをみていた。


「この装置、俺たちのことを普通の人達に見えるようにしちまう奴らしい」


「コレは気ををつけねばならん」


「俺たちの存在が知られるのはマズイってことか?」


「そうじゃ。ワシらはあやかし。人間と出会った時は、「死」、「憑依」しか無いのじゃ」


「でも、サキの両親はお前を見たんだろ?」

 コマは口ごもって、しどろもどろに、


「何にでも例外はあるのじゃ」

 と答えた。慎一は少しニヤっとした顔をした。


「そうだな。サキの両親も今は罪を償ってるんだし」


「まだ、あの雄島って男はまだ捕まって無いのよ」

 サキは思わぬことを呟いた。


「俺たちで見つけて警察に差し出すとかできるんじゃ無いか?」


「お主、それはご法度じゃ」


「なんでだよ」


「我々の世界にも不文律はある。それをやれば、やがて我が身に報いが降りかかるであろう」

 慎一は何かを言いかけたがグッと堪えて、


「わかった。さて、この面倒臭い状況であの蛇野郎をなんとかしないとな」

 古事記によれば、八岐大蛇は、出雲国に入った須佐之男命スサノオノミコトに退治された。頭と尾が八本ずつある。


「とにかく中に入らないことには仕方ねえな。どうする? コマ?」


「ワシにはちょっと考えがある」


「どんな?」


「サキじゃ」

 サキは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして言った。


「え? ネコちゃん、アタシ??」


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