037 ハンバーグ、俺は実はおろしポン酢が一番好き

 ◆◇◆



 てな訳で、さくもの家は一瞬で決まった。血が染み付いた床や壁は、あえて当時のままにしているらしいが、さくもはそれについても気にする様子は無かった。契約書にサインを済ませ、月初めとなる来週からの入居が決まった。


 何とも怪しい不動産屋だったが、さくもが満足しているみたいだから良いだろう。怪しい性癖の濃月さんと、俺の椅子になってくれた炭崎さんとは別れを告げ、窒息しそうな空間から、やっと外の明るい世界へと戻ってきた。


 とは言っても、もう夕暮れだ。外は薄暗かった。


「さくもちゃん……。今週までは、りんごくんの家で寝泊まりするんだ……。ふーん、そうなんだ」


「充子……あと少しだから、さくもを泊まらせてやってくれ。野宿させるのも心苦しいぜ……頼む」


 本当は、俺のさくもへの好意が充子を傷付けていることも分かっている。


「りんごくんは、やっぱり他の女にも優しくするんだね……。でも、まあいいや。監視カメラでずっと見てるから」


 さくもとの同居生活が終わるのは、もう残り数日。バレたら不味いようなことも本当にしていないし、充子には申し訳ないが、あと少し堪えてもらおう。


 その代わり、俺は必ず充子を幸せにする。



 ◆◇◆



 過ちはいつも、一番都合の悪い時に起きる。バレなければ他人を不幸にしない。だけど、俺とさくもは多分一生背負い続けるだろう。


 その日の晩 ——


 さくもとの生活がもうすぐ終わる。だから俺は、俺なりに張り切っていた。スーパーで合挽き肉が半額になっていたので、今夜はハンバーグを作ることにした。


 ストゼロにも合うように、濃厚なデミグラスソースハンバーグがベストだ。


 みじん切りしてきつね色になるまで炒めた玉ねぎ、塩胡椒、ナツメグで味を決める。つなぎに、卵と、牛乳を吸わせたパン粉。しっかり捏ねて形を作ったら、表面を薄く片栗粉で覆う。


 そうすることで、肉汁を中に閉じ込める。これが、俺の隠し技だ。


 ハンバーグは、確かに焼くのは難しいが、慣れてしまえばお手の物。今日も俺は、絶妙な火加減で最高の状態を作り上げる。その間、市販のデミグラスソースを温め、お皿にカット野菜を盛り付ける。カット野菜は、便利だ。


「りんごぉ! 何か良い匂いがしてるなぁ! ストゼロが進むぜぇ! それに、りんごの手料理食べれるのもあと少しと思ったら切ないわ! ストゼロ飲んで、寂しさを楽しさに変えよう! ひゃっほー!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る