038 飯テロ、俺は蛇の気持ちは分からない

 酔っているさくもの言葉だから信憑性は無いが、さくもだって「寂しい」らしい。さくもの本当の気持ちは知らないけど、俺は、自分の本当の気持ちを知っていた。


 俺は、さくものことも好きだ ——


 友達として好きだと思っていたが、そうではなかった。同棲生活が終わると分かった途端、胸の奥が苦しくなった。異性として、さくものことを好きになっていた。


 ただ、どのタイミングでさくものことを好きになったのかは分からない。最初は、ストゼロばっかり飲むし、爬虫類食べるし、ただおっぱいがデカいだけの女性だと思っていた。当然、恋愛対象外。


 だけど今では、充子と比べてしまっていた ——


 恋愛って苦しいなと思いながら、俺は最高のハンバーグを完成させた。


「ほら、出来たぞ」


 カット野菜の隣に盛り付け、温めておいたデミグラスソースをかける。


「うぉぉぉおおお!!!! 美味そうだ、もう一本開けるか!!!!」


 さくもの気分は最骨頂に達したようだ。冷蔵庫から、2本目となるストゼロりんご味を取り出している。俺は、テーブルの上に、ハンバーグが乗ったお皿と箸を置いて座る。


 さくもが、ベッドに寄り掛かかる形で俺の反対に座った。


「いただきます!」


 さくもの箸が、ハンバーグに入る。溢れ出す肉汁に、さくもの目の色が変わったのが分かる。


「お店のハンバーグみてぇだな!」


「見た目だけじゃないぜ?」


 ハンバーグが、大きく開けたさくもの口へと入った。


「おお、やべぇ! 何だよ、この肉汁!」


「美味いだろ?」


「ああ、最高だ! 充子ちゃんに嫉妬するぜ」


 さくもは、そう言って一気にストゼロを喉へと流し込んだ。2本目のストゼロが、グビグビと音を立てながら消えて行く。口内の、肉汁の脂分を清める水だ。


「あたしってタイミングが悪かったのかな?」


「タイミング?」


「あ、いや。何でもねぇ! こうなれば、もう一本開けるか!」


 ストゼロは、脅威のスピードで3本目へと突入した。さくもは、千鳥足で冷蔵庫へと向かう。


「お、ノア!? お前も舌なんて出してストゼロ飲みてぇのか? そうか、そうか。お前も飲みたいんだな! ちょっと水の中に混ぜてやるから待ってろ!」


「おい、さくも! ノアにストゼロは流石に不味いぞ! 動物愛護団体に怒らちまう」


「そうか。ストゼロの美味さを知らぬまま一生を終えるのか。せっかく、私に食われないで拾った命なのになぁ!」


 ノアは今日も、俺らの気持ちなんて汲み取れずにニョロニョロしていた。

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