第11話 そして二人は対峙し、鷹はGを墜とす

 奇襲の知らせを受けたのは、まだ陽も昇らぬ早朝だった。

 彼はそれを聞くと、仮眠していたベッドから跳ね起きた。

 出発が、迫っていた。

 用意された船は、既に燃料をも積み込まれ、後は乗組員それぞれの用意だけだった。


「そんな余裕はない」


 あの首領の乾いた声が全体に命令をかける。


「身一つでいい、いますぐ配置につけ!」


 自分ですら、一瞬その命令に従ってしまいそうな、その声が、大きくも小さくもないが、響きわたる。長い髪をなびかせて、キムもまた自分の職務を全うすべく、武器を持ち出していた。奇襲なら、兵士の役目は一つしかない。

 では自分は。

 Gは迷った。その様子を見て、キムは無造作に近くにあった銃と長剣を放った。危ないじゃないか、と思いつつも、Gはそれを器用に受け取る。


「暇なら来いよ」


 指を立てて、レプリカントは彼を誘う。短いが、その中に含まれたものは大きかった。

 奇襲をかけてくるなら、それは自分の居た軍なのだ。裏切った時、既に銃を直接向ける覚悟はできているはずなのだ。キムは無言で自分を責める。Gは銃と剣を握りしめた。

 大丈夫、俺は生き残る。

 彼は自分に向かって内心つぶやく。

 俺は「優秀な兵士」なんだから。



 人員は必要ではなかった。必要なのは多数の機械とトラップ。

 それが彼の得意とする戦法であり、効果的なものでもあった。

 もともと彼は自分が軍隊という組織の中で機能するよりは、ゲリラ的に動き回る方が合っていることを知っていた。ただ彼の居る状況が、それをさせなかっただけだった。

 鷹は飛ばした制電波機材が正常に機能していることを確認してから、幾つかの小型のメカニクルにトラップを仕掛けさせた。

 そんな彼の戦法に対して、そういう方法が好きだという彼に、年下の友人はよくこう言っていた。


「それじゃまるであんた、実は誰も信用してないみたいじゃない」


 そうかもしれない、と彼は内心つぶやく。

 確かに人当たりはいいし、要領もいい。多少型破りのところがあっても、それは常識の許容範囲にとどめている。

 だからまず居る組織の中で、強烈に拒否されることも、嫌われることもないだろう、と考えている。

 そうなるようにしてきた。好かれることが大半だった。彼を慕う下士官にせよ、彼の行動が多少型破りでも、それを「仕方ないな」と見逃す上官にしても。それはあくまで彼の計算範囲だったから。

 だが、あの友人だけは別だった。

 違うのだ。

 確かにある程度、自分の思うようになる所もあった。

 だけど、それ以前に、彼にも踏み入れることのできない何かを、ずっとその中に抱え込んでいた。それに気付いたから、惹かれて、手に入れたいと思った。手に入れて、その関係を崩すことを、怖れた。

 怖れたのは、そこに終わりがあることを知っていたからだ。

 最初から。彼は知っていた。

 この関係には終わりがあるのだ。これで何かまた、自分たちが近づくことがあったにせよ、それは、今までと同じことにはならない。

 それは、仕方がないことなのだ。

 ―――トラップの信号が、手にした小型のプレートに点滅する。

 ここまでやってこい、と彼は思う。

 そうしたら、俺の手で墜としてやるから。



 爆発音が、近くで起こった。Gは辺りを見渡す。兵の姿は何処にもない。ファクトリィの敷地内には、高い建物もないから、見晴らしは良い。隠れる所は少ない。


「今の爆発の原因は何?」


 キムは誰かと連絡を取っているようにつぶやく。


「判った」

「何だって?」

「アファンダ製の起爆剤をベースにした…」


 また一つ、爆音が、響く。確かにそこには何もない。


「おかしいんだよG。何処にも、兵士の気配はないんだ」

「気配がない?」

「『覚めた』レプリカントには、ある程度の感応力があるんだ」


 無言の通信は、テレパシイだったのか、とGは気付く。


「トラップか?」

「だと、思う」


 トラップ。人の気配はない。その戦法は、彼に友人の存在を思い出させた。

 また一つ、爆音が響く。


「…え? 何?」


 誰かが交信してきたようだった。キムはやや表情を歪める。


「どうしたの」

「出発の準備ができたって。撤収がかかった」

「撤収ったって、これじゃお前、身動きが取れないじゃないか」


 トラップは、彼等が船にたどり着くまでのルートにも、明らかに存在していた。冗談じゃないと思う程の量を、ふんだんに使う、この方法。

 Gははあ、と大きく息をついて、両手で顔を覆った。

 誰が、友人に命じたのかは、容易に想像がつく。自分がこの舞台から、とりあえずの退場をさせるため、あのひとは、友人を派遣したのだ。

 そしておそらくは友人をも。

 どうしたの、とキムの声が耳に届く。指のすきまからのぞき込むと、心配そうな顔で自分を見ている。


「キム」

「何」

「今から俺の言うこと、聞いてくれ」

「聞いてるよ」

「最後の願いだ。聞いてくれよ」

「聞くよ! 最後なんて言うんじゃない!」


 彼は顔から手を外し、目を伏せる。


「仲間に聞いてくれないか、どのあたりにトラップがあったか、感じられるか」

「あ? …うん」


 訝しげな顔をしながらも、キムは言われる通りに仲間と連絡を取った。Gは地面の上に、これまでしばらく過ごしてきたファクトリィの配置図を指で描く。ひどく頼りない図ではあったが、とりあえずの配置を知るには十分だった。


「ここが本館として」


 キムは通信の結果を全部ではないけど、と言いながら小石で置いていく。やっぱりそうか、とGはやや眉をひそめる。

 彼は全てのポイントを聞くと、その上に、転がっていた木ぎれで強く一本の曲線を描いた。


「じゃあ皆に伝えてくれ。こう歩けば、当たらないで、済む」

「G?」


 キムは顔を上げた。


「奴なら、ここは仕掛けない」

「―――おいそれって」

「呼んでるんだよ、俺を」


 彼は手にしていた木ぎれを強く地面に叩きつけた。ぺき、と軽い音がして、それは簡単に割れた。


「死ぬなよ」

「死ぬつもりはないよ。俺は」

「死んだら、怒るぞ」


 彼はその言い方にやや苦笑しようとして、顔を上げた。そして驚いた。

 目の前のレプリカントは、ひどく涙目になっていた。何やら、それを見て、彼はひどく胸が痛くなった。

 そして、何やらひどく、嬉しくなった。彼はぽん、とキムの肩を叩くと、穏やかな声で告げた。


「怒られるのは、趣味じゃないよ」


 うなづくと、キムは何処かへ通信を取った。すると必ずまた何処かで会おう、とキムを通じて首領の言葉が伝えられた。

 Gはうなづくと、まだ涙目のままのキムの背中を押した。



 彼が告げたポイントを避けて、そろりそろりと船に向かっていくレプリカント達を眺めながら、Gはひどく穏やかな気持ちになって、地面に一度置いた銃と長剣を取り上げていた。

 星間最大のレプリカントのファクトリィの敷地は、それだけにやはり広かった。Gはその中を、友人のトラップを避けながら進んで行った。

 生産する機械の音も、そこで働く人間の姿も、既にそこには何もなかった。その場を奪取したはずのレプリカント達は既にこの地を離れようとしている。既にそれは秒読みだ。

 彼は不意に、銃を向けた。トラップが一機、彼を狙っていた。彼は冷静に、それを打ち抜いた。

 露骨な程に、その仕掛け方は、友人のものだった。彼に判らせようとしているのが強烈な程に。

 彼もまた、その有効な方法を何度か聞いたことがあり、そして有効に使ったこともある。

 鷹は他の人間にそこまで詳しくは教えなかった。下手に教えて、自分の背中を撃たれるようなことがあってはたまらないから、とあの一見人当たりの良い友人は言っていた。

 それじゃ俺ならいいの、とある夜彼が訊ねると、友人は笑いながら言ったものだった。


 君がそうすることがあるんだったら、その前に俺が君を墜としてやるよ。


 笑いながら。無論そんなことはないけどな、と付け足しながら。

 でもそういうことはあってしまった。友人は、それを実行すべく出向いている。


 だったら。


 彼は銃を握りしめる。


 俺は本気であんたに向かわなくてはならない。


 何も今までが本気ではなかったという訳ではない。いつだって本気だった。相手が自分のことを本気で思ってくれるのが判っていたから、それには応えたつもりだった。


 だけど。


 彼は思う。


 俺は結局自分の本心をあんたには言えなかった。

 自分自身が、生きてることが、生きて行かなくてはならないことが、全て辛くて、できれば何処かで終わりを見つけたかった自分自身を。

 それを白状すれば、きっと俺は少なからず楽にはなれたかもしれない。

 だけどあんたには言えなかった。

 言ったらおしまいだと思っていた。

 終わりはあると思ってた。最初から。

 だけど、あんたと居る、あの心地よい時が終わってしまうのは、俺はそれでも確かに惜しかったんだ。


 ふ、と軽い風が吹いて、運搬用の広い道路にも、沿いに立つ木々の葉がかさかさと舞い始めていた。だが、その音が何かに遮られている。遠くで。

 彼は目を凝らした。できれば見たくなかったものが、そこにはあった。


「何故だ?」


 遠くからでも、あの友人の声は、よく聞こえる。

 その声が耳に飛び込んだ瞬間、彼の全身は、確かに総毛立った。ああやっぱりいい声だ。誰よりも、俺が、感じた。最初に会った時から、俺の中身を全てかき回して、揺さぶった。

 全身は、まだそれを覚えている。

 なのに、心はそうではない。

 あの司令を求めているのだ。あの司令の見る、既にそこにある未来を信じてしまうのだ。

 彼はふらりと、両手で銃を上げた。それが、答えになる。



 「優秀な兵士」の中でも、第七世代で少佐にまで昇った彼等がぶつかることは、ある種の悲劇と言える。

 Gが撃った弾丸を避けた鷹は、そのまま横の生産ラインの建物の中に入った相手を追った。

 広大な敷地とは言え、生産ラインはある一定のエリアに集中しているのが普通である。その中でも、純粋に生産に従事するラインは低層部にあり、それを統括する部署は高層部にあることが多い。

 当初Gは、低層部の、破られた扉から中に入り込んだ。だがそこは、ひどく入り組んだ、迷路、もしくは無機質で作られたジャングルのような所だった。


 だとしたら俺には分が悪いな。


 そういった込み入った場所は、友人の得意とするところなのだ。所詮その友人から戦法を教わっていた自分にとって、それは分の悪いところである。


 では何処へ行けばいい?


 自問する。

 とりあえずは、と彼はキムから分けてもらっていた時限発火装置を配線や電子部品のジャングルに仕掛けておく。それでどのくらい時間が稼げるかは知らない。だいたい自分が、あの友人が勝てる保証など、まるでないのだ。そもそも戦いたくはない。

 戦いたくはない。だけど、死にたくもない。

 友人が自分を殺すと決まっている訳ではない。だが相手はそのための武器を持ち出している。以前の口約束は、明らかに有効だ。

 殺すとは言っていない。だが墜とすだろう。

 曖昧な言葉だった。そして曖昧ゆえに、それは現実味を帯びていた。

 彼はその記憶に曳かれるかのように、足を階段の方に向けていた。



 何処だ、と鷹は無機物のジャングルに足を踏み入れて思う。相手の気配はそこにはなかった。だが居た気配はある。

 数秒、その大きな目で辺りに視線を走らせる。そして弾かれたように、その場を離れた。

 次の瞬間、時限発火装置が爆発した。

 なるほど、と彼は思う。教えた通りに、実行している。よく覚えているな。


 覚えて。


 自分の考えた言葉が、また別の記憶を引き起こす。覚えているだろうか。あの時自分の言った言葉を。自分に引き金を引くようなことがあったら、自分は相手を墜とすだろう、と。

 天使種にとっての「墜ちる」はひどく曖昧な意味を持っている。

 それは単純に「殺す」とはやや別の意味を持っていた。持ってはいるのだが、それがどういうことか、具体的に説明せよ、正確な意味を言え、と言われると、まず誰も答えられない。そのくらい曖昧な言葉だった。

 だが、曖昧なのに、それは天使種の誰もが知っている言葉でもあった。

 つまりそれは、自分達の言葉ではないのだ、と鷹は理解していた。

 自分達が融合している、別の位相の生命体が必要とする意味の言葉なのだ、と。だから自分達が理解する必要はないのだ、と。

 それが必要な場所は、おそらくそれが知っているのだ、と。

 その言葉を告げたのは、無意識だ、と鷹は思う。


 俺だったら殺すだろう。墜とすなどという曖昧な意味ではなく。

 だが俺の中の何かは、その言葉を言うことを許さなかったに違いない。

 奴を墜とすことは俺に認めても、殺すことはさせないのだろう。

 だったらそれはそれでいい。


 彼は思う。


 いずれにせよ、この場で自分のしなくてはならないことは、殺すにせよ墜とすにせよ、大して変わるものではないのだ。


 彼は目を閉じて、気配をたどる。

 …上か。

 舞台は揃った。



 最上階の上は、屋上だった。

 だがそこは、一般の立ち入りが禁じられているだけあって、柵の一つもない。踏み外したら、数十メートル下の地面に激突するだけだ。

 外からでは大して気付かなかったが、こうやって昇ってみると、意外に高いことにGは気付く。見晴らしが良い。レプリカントの工場以外、大して工業化の進んでいないマレエフの空は美しかった。見上げると、ぐらりとする程、空は深く、青かった。

 彼がその最上部に昇った理由は二つあった。

 一つは、その高さなら出航する船の様子が見られると思ったから。自分がとりあえず友人の気を引きつけておけば、少なくとも彼等は安全なのだ。

 乾いた、やや冷たい風がさえぎる物の無い高層部に吹き渡り、彼は思わず目を細める。

 光にせよ、風にせよ、何だってこうストレートなんだ、と彼は眉を寄せた。

 細めた視界の中にも、その船の姿は入ってきた。

 既に扉は閉じている。それまでにトラップの爆発音が全く聞こえなかった訳ではないが、おおむね大丈夫だっただろうことは、容易に予想がつく。

 ああ、乗り込んだんだな。

 彼の脳裏に、長い栗色の髪のレプリカントの姿が浮かぶ。味方を簡単に裏切るような自分でも、そのために涙目になっていた、あの素直すぎるようなレプリカの。


「…そうだよ」


 低い音が、耳に届く。風に揺れて、ややわなないている。


「最初から」

「最初から、何?」


 船の出る音が、大きくなる。

 彼は口を閉ざす。

 今言っても、聞こえない。そのかわり、じっと、自分の前に歩いてくる友人を見据える。

 友人は、近づいてくるが、銃を上げることはない。まるで船が出るのを待っている彼をまた、待っているかのようだった。

 やがて音とともに、船は空高く昇って行った。青い空の彼方に、見えなくなり、音も消えた時、ようやく彼は口を開いた。


「最初から、俺は白状していれば、よかったんだ」

「そうだな」

「知っていた?」

「知らない。だけど、気付いてはいたよ」


 そう、と彼はうなづいた。


「あんたと居た時間は、一番、俺にとって、心地よかったんだ」

「知ってたよ」

「でも、仕方ないね」


 彼は、銃を後ろに放り、そのかわりに特殊セラミックの長剣を抜いた。

 どうせ既に、弾丸は尽きているのだ。換えのために貰ったものも、火薬だけを抜いた細工に使い果たしてしまった。鷹はそれを見ると、自分もまた銃を放り、長剣を抜いた。

 それ以上の言葉は無かった。

 優秀な兵士二人は、綺麗な構えを取ると、何度か剣同士をぶつからせた。硬質の、特殊セラミックの高い、澄んだ音が晴れた空の下に響く。

 互角のように、当初は思えた。

 だが何度か打ち合ううちに、鷹には友人の弱点が読めてきた。自分の教えたこと以上には、この友人は長剣については、知らない。特に、規格外のことについては。

 そこを彼はついてきた。


 Gは一瞬躊躇する。

 無意識のうちに、「訓練」で相手をしてくれた友人の姿を現在の自分の動きにあてはめていたことに気付く。

 気付いた時には遅かった。鷹はあくまでゲリラ向きの兵士だった。相手が屋上の端にまで走るのを見て、とっさに動いていた。

 追わなくてはならない。

 そしてそこが、高層部ということを、瞬間、忘れていた。

 彼は追った。周り回った。

 追いつめた、つもりになっていた。そんな訳はないのに。

 相手がコンクリートの段差に足を掛けた時、そんな気にまでふと、なりかけていた。

 だがそれは錯覚だった。

 そして風が吹いた。

 風が、彼の長い髪を、揺らした。

 視界が一瞬塞がれる。

 沈み込み、視界から消える相手に、反応が遅れた。

 次の瞬間、右の脇腹から、衝撃が走った。

 何が起こったのか、彼には判らなかった。斜めに、切り裂かれることなど、知らない。

 急に、くらりと、重心が傾いだ。

 何だろう、と彼は思う。

 痛みより先に、疑問に思った。

 視界に、青い空が飛び込む。


 変だな、何で俺空見上げてるんだろ?


 髪が広がる。

 激しい動きの中で緩んでいたリボンが解ける。

 彼は大きく目を広げて、視界に大きく広がっていく青を感じていた。

 地面が、無くなっていた。

 

 墜ちる。


 ああそうか。


 ―――墜ちていく彼の脳裏に、一つの情景が浮かんだ。


 きっとあのひとは待っている。いや待っていないかもしれない。きっと待たないだろう。

 だけど、不思議な程綺麗な、あの青い、ヴェールのかかった空を見ている姿が。

 俺が墜ちても、あのひとは。

 それでも俺は、あなたを。


 手を伸ばす。冷たい大気が腕を刺す。背中を大気が押す。突き刺すような冷たい大気が、全身を刺す。

 落下していく。空気抵抗。


 このまま何処へ墜ちよう?


 両手を伸ばす。広がる髪が視界を隠す。


 それでも俺は、あなたを。

 だから、必ず。

 

 ―――絶対の命令を発動する―――


 彼の意識の中で、そんな声が聞こえた。

 それが何であるのか、彼には判らなかった。

 本当にそれが声であるのかすら、判らなかった。

 だがそれを信頼することは正しいと思った。

 そうすれば、自分は必ず生き残ることができる。

 どんなことをしても、いつか、あのひとに会うために。


 ……綺麗な空が。



 鷹は、落下途中のGが視界から消える瞬間を目の当たりにして、その大きな目をさらに大きく広げた。


 そういうことか。


 彼は唇を噛むと、自分の中にも居るだろう何か、が友人に対して起こした事象を必死で認めようとしていた。

 大きく腕を振り上げると、冷たいコンクリートの上に、思い切り両手の拳を叩きつけ、しばらく身動き一つせずに、その場にうずくまっていた。


 ……やがて陽の光が中天に差し掛かる頃、彼はふらりと立ち上がった。


 そして軍服に貼り付けられた星を引きちぎると、その場に投げ捨てた。

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反帝国組織MM⑤オ・ルヴォワ~次に会うのは誰にも判らない時と場所で 江戸川ばた散歩 @sanpo-edo

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