第28話 答え合わせ①

 千歳と屋上で別れ、教室に戻る。教室に入ろうとすると松田と斉藤さん、小山田が詰め寄ってきた。


「おい航平!明後日どうすんだよ!」

「どうしたいきなり…」


 松田がグイグイ詰め寄ってくるのに引き気味に応えると


「明後日体育大会だろ!俺たちまだ何も決めてないだろ。打ち合わせしなくていいのかよ!」


 あー、吉崎さんと茜を見張る、って話しだったか。


「明日で間に合うだろ。明日なんか予定あるのか?」

「明日やるって決めてるならいいけどよ…俺は明日は暇だぜ!」


 お前はいつも暇だろという言葉を呑み込みつつ


「小山田は分かるが、なんで斎藤さん?」

「斎藤のやつ、盗難事件の犯人は赤坂じゃないって担任にも言っててよ、信頼していいかなって」


 確かに斎藤さん、朝俺にも言ってたな。


「それで、俺らバスケ組だけじゃ試合中見張れないだろ。そこで斎藤に協力してもらおうと思ってな」

「赤坂君たちが試合してる時、全力で試合できるように頑張るから!」


 その役目は千歳に頼もうかと思ってたが…斎藤さんも協力してくれるなら吉崎さんを無理にバスケの試合中引き止める理由もなくなるな。


「すでに1人適任を見つけてたけど、ちょうどいい。斎藤さんにも協力してもらえば、2人をそれぞれ見張れるな」

「そうだな!それでいこう!」


 思わず松田たちと盛り上がっていると


「おい、もう授業始まるぞ」

「そうだな、明日の昼と放課後、頼むぞ」

「任せろ!」


 小山田の一声で俺たちは解散する。


(今日の夜から明後日にかけて、真剣に戦う?んだから、放課後くらいは小山田達と遊んで英気を養うか…)


 そう思いながら、怪訝そうな顔をしてる吉崎さんの隣の席に戻った。なんで吉崎さんはそんな顔をしているのだろうか?




 放課後になり、俺はクラスメイトに半ば囲まれながら学校を出る。どうやらクラスの大半が参加するらしくみんな揃ってぞろぞろと教室を出る姿に別のクラスの連中は驚いてるようだ。

 松田や小山田、吉崎さんに斎藤さんも参加するらしい。千歳には少しクラスメイトと遊んで帰るから遅くなるとは連絡してあるが既読がついただけで返事はない。


「航平!どこか行きたいとことかあるか?」


 と小山田が聞いてくるので俺はスマホから意識を外し


「いや…特にこれといってないな」

「そしたらカラオケとスポーツセンターなんてどうだ?色々出来ると思うぞ」


 確かにそれならみんな楽しめそうだ。小山田のやつ、よく考えてるな。


「いいんじゃないか?」

「よし!まずはカラオケに行くぞ!」


 という小山田の掛け声に全員が答える。そうすると…


「おいお前ら!何やってる!うるさいぞ!」


 と教師に怒られてしまうのだった…



 教師の説教を聞き流…もとい真摯に受け止めて校門を出る。


「どうするよ?よくよく考えたらよ、スポーツセンターとカラオケって時間的にキツくね?」

「それじゃあまずはスポーツセンターに行こうぜ!カラオケは体育大会の打ち上げで行こう!」


 誰かの掛け声からそう決まり、俺たちはスポーツセンターに行くことになる。

 そしてぞろぞろと校門から歩き始めたとき、向こうから猛スピードで自転車が迫ってくる。


「危ねぇ!」


 田中が叫ぶ。しかし細い道で俺たちは大所帯。誰も反応出来ず、事故が起こるかと思ったが、自転車は俺たちの目の前で横を向けながら急停止する。

 あまりの出来事にみんながあんぐり口を開けて佇む中、自転車に乗ってきた千歳は


「おやおや先輩。こんなところで奇遇ですね〜。こんなぞろぞろと沢山の人を連れて、先輩もついにボッチ卒業ですか?」


 などと言ってきた。


「千歳…まず、俺はボッチじゃない」

「見栄を張らなくてもいいんですよ?クラスのお別れ会的なもので、一応呼ばれただけなんですよね?僕は分かってますから」

「お前は何にも分かってないよ」


 ニヤニヤしていることから冗談を言っているのだろうとは思うけど、一体なんでこんなところにいるんだか。


「いやー。まあ冗談はさておき、なんなんですか?この間抜け面を晒してる面々は?おや、松田さんもいるじゃないですか。松田さん、いつの間にピエロに転職したんです?お似合いですよ?」

「おい千歳…」

「誰がピエロだ!川澄ぃ!」

「やだなぁ、本当のことじゃないですか」

「こ、こいつ…」


 固まってた奴らも続々と復活して騒ぎ出す。


「な、なぁ、君は赤坂や松田とどういう関係なんだい?それとさっきの自転車の運転、危ないからやめた方がいいんじゃないかな?」


 小山田が恐る恐る切り出した。千歳は小山田をチラッと見ると


「ご忠告痛み入ります。先輩とは寝食を共にする関係…とでも言えばいいんですかねー。松田さんは同じ中学にいた…ような気がします」

「なっ…!?」


 おい!?なに同棲してるって言ってんだこいつは!騒然とするクラスメイトの中で千歳を睨むと、千歳はにやにやしながらこっちを見ていた。こいつ…


「ね、ねぇ、川澄さんと言ったかしら?その、さっきの言葉は赤坂君と同棲しているって意味なのかしら?」

「ええ。そうですよー」


 この混乱の中、吉崎さんが目をピクピクさせながら千歳に声をかける。


「その…女子中学生と男子高校生の同棲生活なんて…認められることではないわ。が、学級委員長として、これは見過ごせない問題よ」

「相変わらず素直じゃありませんねー。あなたが学級委員長であろうがあるまいが、僕にはどーでもいいことですのでー。勝手な正義感を振りかざすのはやめてくれませんかねー」

「なっ…!」


 淡々とにやにやしながら言い返す千歳。さすがの吉崎さんも言葉に詰まったようだ。しかし、いつのまにかクラスメイト達も千歳と吉崎さんのやりとりに注目しているようで、静かになったきた場の中で


「自分を偽って、他人を騙して、それで得た偽りの幸せは満足ですかー?」


と言う千歳は、なんだかとても悲しそうに、苦しそうに見えたのだった。俺がそれを問い詰めようとしたとき


「さて、せっかく役者が揃っていることですし、答え合わせ、始めましょうかー」







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