第13話 体育大会 ②

 3月に入り、体育大会の練習も行われている中、俺はいくつかの悩みを抱えていた。


 そう、最近やけに近かった優花が離れているのだ。

 いつもなら昼休み、2人で隣同士お弁当を食べていたのだが、最近はまた屋上に行って食べている。そしてそこで思いっきり密着してくるのだ。

 嬉しいんじゃないかって?確かに嬉しい。ただドキドキして心臓に悪いのだ。

 ある日、昼食を屋上で食べていて密着してきたとき


「な、なあ優花…」

「んー?どうしたの航平君?」

「なんか…ちょっと近くない?」

「そう?そんなことないと思うけどなー♪」


 こんな感じである。まあ嬉しいので離れろとは言わないが。

 しかし最近、優花と屋上で昼食を食べても、密着してくることもなく、少し離れて昼食を食べているのだ。


 だが、これだけではないのだ。

 下校中も今までは手を繋ぐのをみられると恥ずかしいからと言って手はあまり繋がなかったのだが、少し前、それを通り越して腕を組んでくることもしばしばあった。

 だが最近、腕を組むことも手を繋ぐこともなく、逆に1人で帰ることが増えたのだ。確かに体育大会の練習や、クラス委員の仕事で帰る時間が合わないこともある。だがそれにしても、露骨に避けられている気がするのである。


 幸い、家でスマホで話すことは多いのだが、電話もかかってこなくなった。


 これらから俺は1つの結論に導かれていた。

俺は優花に避けられている。それは嫌われているからだ。と。

 それならば俺の取る行動は1つだ。優花の経歴に傷をつけないためにも、ホワイトデーで付き合いをきっぱり止める。そうすればいいのだ。

こちらから無理に誘うこともせず、流れに身を任せてホワイトデーを迎えればそれで済む。この1ヶ月は夢のようなボーナスステージだと思えばいい。

 だが、俺の心はモヤっとしたままだった。今までなら1人で帰るのも寂しくなどなかったが、今は少し寂しく感じる。自分の心の弱さに呆れてしまう。


 2つ目は麻生と田中がしつこいことだ。そこまでして俺と吉崎さんとの関係を聞きたいのか、あいつらの考えてることはよく分からん。


 そして3つ目は最近昔感じたような視線を感じることだ。誰かにずっと見られてるような感覚。恐ろしいことこの上ない。思い過ごしであるならいいんだが…どうにも嫌な予感がする…


 さて、そんな俺は今日も体育大会の練習に励み、麻生や田中を適当にあしらいつつ1人で帰路につく。

(また視線を感じる…尾けられてる?)


 正体を探りたいと思った俺は気づかないフリをしてコンビニに入る。店員にトイレを借り、ジャージに着替え、店を出る。

そして来た道をダッシュで戻ってみると…


「…もしかして、茜…か?」

「…バレた?ひっさしぶりだねぇこうくん!」


 俺を尾けてきた不審者は正体がバレると悪びれもせず抱きついて来た。

 そう。幼馴染の神崎茜。明るいツインテールの女子だ。明るいとはいっても、裏は真っ黒なのを俺は知っている。


「抱きつくな!暑苦しい!」

「そんなこと言って〜嬉しいくせに〜うりうり」

「いい加減、離れろっ!」


 茜を剥がし、ため息をつく。いや、ここにいるのおかしくないか?


「茜、お前学校は?」

「やめてきた!」

「はぁ!?」

「ここに引っ越してきて、1人暮らし!こうくんの近くに住むって行ったらお父さんは許可してくれたよ!」

「えぇ…てか、なんでここにいること知ってるんだよ」

「こうくんのお母さんに頼み込んで教えてもらったの。勝手に…何も言わずにいなくなるから…心配したんだからぁ!」


 あの母親め…と思ったら茜が泣き出してしまった。慌ててなだめる。


「お前に何も言わず出て行ったのは悪かったって。な?」

「抱きしめたら許してあげる」

「…はいはい」


 茜をぎこちなく抱きしめて頭を撫でる。いい匂いがするし、早く離れてほしい。思春期の男子には毒だ。


「やっぱりキスしたら許してあげる」

「アホなこと言ってないで離れろ。後しれっと鼻かむな!」

「えへへ…」


 照れるな!洗濯面倒なんだぞ…

 茜は俺から離れると


「あと…あの時は本当にごめんね!私…こうくんが心配で…先走っちゃったの!」

「気にはしてるけど…心配してくれてたのは分かるから、もう2度とあんなことしないって約束してくれ。本気で怖かったんだからな」

「怖かった…?でも、もうしないよ!」


 茜も少し変わったな。ただ、少しお互いの言っていることが微妙に違う気もする。


「今日は用事あるからそろそろ帰るね!これ連絡先!後で登録しておいてね!あと、4月からこうくんの学校に転入するから、よろしく!」


 そう言うとダッシュで帰っていった。手には茜の連絡先。…マジ?


 俺はその時、俺をジッと見ているもう1つの視線に気づかなかった。




 家に帰ると俺はすぐに松田に電話をかけた。


「おい松田。なんで茜がここにいるんだ」

「茜?もしかして神崎茜のことか?」

「そうだよ」

「マジか。あいつ、どうだった?」

「相変わらずだったけど、少し変わってたな。陰が無くなった感じ」

「ならよかったじゃねえか。流石に反省しただろ」

「そうあってほしいな」


本当に、そうあってほしい。


「もし何かあったらすぐ連絡してくれ。すぐ行くから」

「助かる」

「だって親友だからな!」


 松田は馬鹿だけどいい奴には間違いない。


「それで親友よ、明日の宿題写させてくれ」

「…断る。まずは自分で頑張れ」


 そう言うと電話を切る。とりあえず茜を連絡先に登録しておき、俺は明日の宿題に取りかかった。

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