第12話 体育大会 ①

 2月もそろそろ終わりを迎えようとしている今、教室は異様な盛り上がりを見せていた。


 そう。3月15日、体育大会である。


 3年生は3月8日に卒業式のため、3月5日に行われるが、自分たち1年生は15日、終業式の前日である。

 だけど俺は気が気でなかった。そう。体育大会はホワイトデーの翌日なのだ。優花と恋人でいられるのは14日まで。そう思うと嫌でも意識せざるをえない。


「おい航平!バスケ出てくれるよな!」


 空気を読まない松田がうるさい。しかし、ホワイトデーか…。優花と付き合えるのもあと少し…仕方ないか。元々が高嶺の花だ。この期間は夢のような時間、それでいい。


「おーい、航平?どうした?」

「ん?ああ、ちょっと考え事をな。それで、体育大会のことだろ。バスケ、出てもいいぜ。部には入らないけどな」

「よっしゃー!これでバスケは優勝確定だぜ!小山田達にも言ってくるわ!」


 ほんと、調子のいい奴だ。そう思っているとちょうど優花が先生からの頼み事を終えて戻ってきた。


「あら、朝からため息?どうしたの?」

「いや、松田のやつに呆れてただけだ」


 優花とのことだなんて言えるわけもない。事実松田にも呆れてたので誤魔化そうとする。しかし、優花は納得していないらしく、俺の顔を覗き込んで来る。


「ふーん。その割には顔が暗いよ?何かあったの?」


 優花も鋭いよな。俺が分かりやすいだけか?


「いや、俺の問題だ。気にしないでくれ。それより、先生からの頼まれごとは終わったのか?」

「話し逸らしたね〜。先生からの頼みごとは終わったわよ」


 そう言うと、徐に俺の耳に顔を近づけると


「彼女なんだから、なんでも相談してくれていいんだよ?」


…どうしたものかな。




 体育大会の種目決めで俺はなんの問題もなくバスケになり、今はその練習時間。


「航平!やっぱり上手いな!」

「そうか?これでも腕は落ちた方だぞ」


 事実、俺のバスケの腕は衰えてる。


「そういえばさー、体育大会本番と前日は他校生とか中学生も来るんだとよ」

「なに!小山田…本当か!」

「ど、どうした松田…?」

「それってその中に未来の後輩がいるってことだろ!カッコいいとこ見せれば…!」


 また松田がアホなこと言い出した。


「んー、別にねぇ?僕たちはいつも通りやるだけでしょ」


 そう割って入ったのはうちのクラスのもう1人のバスケ部の森本だ。爽やかイケメンと言った感じで松田は嫌ってたんだったけか。


「おいおい森本!彼女ができるチャンスになるかもしれないんだぞ!」

「いや、僕、彼女いるし」

「俺もだな」

「なっ…!う、裏切り者どもめ!あ、山本!麻生!田中!お前はどうなんだよ!」


 松田は慌てて他のバスケ選択者に話をふる。


「俺か?俺はバレンタインで告白されたから彼女いるぞ?」

「僕は中学のときから幼馴染と付き合ってるよ」

「俺は…い、いないな…」


 田中以外は彼女がいるみたいだ。意外と彼女持ち多いのか?


「田中ぁ!お前は俺の最後の希望だぁ!」

「やめろ引っ付くな!それに俺にだっていい感じの人はいるんだよ!」

「なっ…!お前らは全員敵か!なんで俺だけ彼女出来ないんだ!ちくしょー!」


 俺は松田に前々から思ってたことを言う。


「うるさい、暑苦しい、鬱陶しい。この3つだろ」

「航平まで!なんて事言うんだちくしょー!」


 松田が膝から崩れ落ちた。どうせすぐ復活するからスルーだ。


「そういえば、赤坂って彼女いるのか?松田の言ってる感じだといそうなんだが」


 余計なことを言ってきたのは小山田。


「あ、確かに気になるな!お前が女子と帰ってるとことか見たことねえし!」

「いつも休み時間も1人でいるよね?彼女なんかいないでしょ」


 田中と麻生が乗っかってきた。めんどくさい奴らだ…


「俺か?俺に彼女なんて…」

「航平!お前はいいよなぁ!吉崎さんと良い雰囲気で!」


 松田のやつ…勝手なこと言ってんじゃねえ!あとで〆る。


「えっ!?赤坂って吉崎さんと付き合ってるのか!?」

「まさか。僕の見立てでは松田の勘違いだと思うよ。席が隣で、吉崎さんは優しい。そこから生まれる勘違いだと、僕は思うね」

「赤坂よぉ。本当のところどうなんだ?」

「俺がゆ…吉崎さんと付き合えるとでも思うのか?」

「…いや、ないな。なんか悪い」

「確かにないね。赤坂君、何かあるならこの僕が相談に乗るよ」

「憐れみの視線やめろ。山本」

「僕は麻生だ!チームメイトの名前くらいちゃんと覚えたらどうだね!」


 なんだ、こいつは麻生なのか。


「しかし、吉崎さんに彼氏の1人もいないのは、高嶺の花だからなのか、ガードが固いのか。どっちなんだろうな?」

「田中。お前が考えても無駄だぞ。それに、ガード固いかどうかより、俺らにとっては高嶺の花だからな」

「ん?私がどうかしたの?」


 あれ?聞き慣れた女子の声がする…幻聴かな?と思い振り向くと、そこにはなぜか優花がいた。


「吉崎さん!?驚かさないでよ!びっくりしたぁ」

「ごめんごめん。小山田君。先生が練習終わったら報告しに職員室まで来るようにって言ってたよ」

「分かった。わざわざありがとな」


 どうやら小山田への伝言をしにきたようだ。


「それで?なんの話しをしてたの?」

「さ、さぁ、なんの話ししてたっけな〜。ちょっと忘れちまったな〜」


 田中。目が泳いでるし吹けない口笛はやめた方がいい…


「ふぅん…。ねぇねぇ、田中君と麻生君達はなんの話ししてたのかな?」


 よりによって俺に振ってきた…チラッと目を見ると

『航平君は教えてくれるよね?ね?』

と無言の圧を感じる。


「あー。吉崎さんが高嶺の花だよなって話しだよ」

「ふーん。そんな私って高嶺の花に見える?」

「さあな?」

「じゃあ私は戻るね。練習頑張ってね〜」


 最後俺の目を見て言っていたのは偶然だろうか?サボるとでも思われてるのだろうか。


「あ、吉崎さん!ちょっといいかな」

「どうしたの…えっと、麻生君」

「実はね、吉崎さんは赤坂と付き合ってるんじゃないかって話しもしてたんだけど、そこのところはどうなのかなぁ?と思ってね」


 こいつ…どう言う思考回路なんだ?本人に聞ける勇気はすごいが…

 あと優花、顎に人差し指当てて何考えてるんだ。さっさと誤魔化してくれ


「さぁ〜?どっちだと思う?そんなに気になるなら航平君にでも聞いてみたら?」


 はぐらかした挙句、最後にとんでもない爆弾を落として優花は去っていった。

 これはマズい。そう思った俺は小山田に声をかけようとするも、あまりにも早い動きで園田と田中が詰め寄ってくる。


「赤坂!?本当のところどうなんだよ!?な?」

「き、君!吉崎さんから下の名前で言われていたね!?僕の見立てでは君たちは付き合ってると思うよ!?」

「あのなぁ、俺が付き合っていようがいまいが、彼女持ちのお前には関係ないだろ、園田。あと田中、お前は吉崎さんのことが好きってわけじゃないんだろ?それなら余計な詮索はするな」


 ほんと、誰々と付き合ってるの?とかいう質問は馬鹿馬鹿しい…


「う、うむ…まあそうなのだがね…せめて君が吉崎さんのことをどう思ってるかくらいは友達のよしみで教えてくれてもいいんじゃないかい?」

「俺がいつお前と友達になった?まあ好きか嫌いかと言われたら好きだし、可愛いとは思うがな。そんなことより小山田。さっさと練習始めないのか?やらないなら教室戻るぞ」

「あ、ああ。そうだな。よし!練習始めるぞ!」


 こうして俺たちは体育大会優勝に向け練習に打ち込むのだった。

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