第10話 チ○コ散る



  【モモ香ver】




 

『改めて、我輩はおっぱいである』


 ちょっとヒリヒリするチクビがカスミに挨拶してる。うーん、コイツをつまんで懲らしめると、あたしまで痛いのが難点なんだよね。


「ほえー、すごい技ですね。ホントにチクビが喋ってるみたいですよ。でもこれだと、エ○タの神様出れないですね。全部モザイクにされちゃいます」


「いや、演芸じゃないから。なにが悲しくてTVでおっぱい晒さにゃならんのだ?」


 コイツ、全然信じてないな?すっごい目をキラキラさせてチクビ見てるけどさ。


「あ!アレできます?声がズレるやつ」


だから腹話術じゃないわ」              『だから腹話術ではないぞ?』


「すごーい!ちゃんとズレてましたよ」

 

 うん、計らずともネタみたいになっちゃったよ。つかこのおっぱい、わざとやってないよな?


「ちよっと    ちよっとビーチくん、   声がなんか言ってよ   おくれてくるよ





「……お前わざとやってるやん」思いっきりチクビをつまみあげた。


『いででででででででっ』


 あいたたたたた、自分も痛いわ。あれ?なんかカスミがポカーンと見てるよ。


「……そのつねるまでがお約束ですか?」


「ジャンガジャンガじゃねーわ」


「それだとR1狙うのはちょっと……」

 

「だから、芸じゃないってのに」

 その内、銀の皿とか持ってきそうな勢いだな、こいつ。あ、ホントに灰皿手に持ってチクビと見比べ出したよ。絶対、これでチクビ隠せとか言ってくるな。


「あの、これでチクビを……」


「隠さないから」


 いや、自分のおっぱいにあてて、困った顔すんなよ。てか、このバカチクビ、ちゃんとやれよ?


「いい加減にしないと、またつねるよ?」


『ごめんなさい、ちゃんとやります』

 おっぱいが一瞬下に伸びてすぐ戻った。たぶんお辞儀かな?


「今、おっぱい垂れましたよ?」


「垂れるとか言うなよ。ビーチくんがお辞儀したんだよ」


「なんですか?そのビーチくんって?」


「ビーチクのビーチくんだよ」


「最低のネーミングセンスですね」


 うるさいわ。ほっとけ。


『娘っ子よ、我に従え』

 今頃何言ってんだ?こいつ。


「えっ、絶対遵守の力ですか?」


『いや、言ってみただけだ』


「モモ姉さん、このおっぱい変です」


「だから最初から言ってるよね?」






  ◇



「それでこのおっぱいさんは自我を持ってる訳ですね?」


 ホント、どんだけ説明しただろ?やっと理解してくれたみたいだよ。


「そうだけど、おっぱいにさんとか付けなくていいから」


『そう、我パイはおっぱいである』


 アンタはちょこちょこ小さいボケ入れんなよ。全く、このおっぱいは油断も隙もないな。


「それでそのビーチくんはなんで出てきたんです?」


『世界征服の為である』


「……このおっぱい、バカですか?」


「いや、アタシに言われてもね」


『バカとはなんだ、バカとは?我とモモ香は一心同体であるのだぞ?我がバカならモモ香もバカだ』


 アンタと一緒にすんなよ。同体だけど一心じゃないわ。


「で、モモ姉さんはどうするんですか?」

 カスミがわりと真剣に聞いてくる。


「それがさあ、協力するって言っちゃったんだよね」


「はあ?仮にも正義の味方やってた人が世界征服とか、何言ってるんです?」


「いや、悪の女幹部やってたあんたに言われたくないよ」


「あれはバイトです。ってか封印した黒歴史です。もう触れないで下さい」


 あたしはスマホに保存してある画像を見せてやった。女幹部時代のカスミの超エロい格好してるヤツだ。


「な、な、なに保存してるんですかっ消して下さいっ」


「消してもいいけど、他に保存してるよ?だいだい、一度ネットに出回ったもんは永久に削除不能だし」


 うわー、めっちゃ落ち込んでるよ。まあ仕方ないけど。


「ま、飲んで忘れようよ?ほらほら」

 あたしはカスミのコップに焼酎をついでやる。こっそり睡眠薬も入れて。


『そうだ。誰にでも黒歴史はあるものだ』

 

 チクビがなんか言ってるけど、そもそもおっぱいに歴史ないだろ?


「……なんか企んでます?言っときますけど、世界征服の手伝いなんかしませんよ?」

 カスミが潤んだ瞳で見てくる。おお、いい感じに色っぽいわ。


「うん、まあいいから飲みなよ?今夜泊まってくでしょ?」


「んんん…はぃ…そうしま…す」





 さて、今夜は楽しくなりそうだ。








  【葉月Ver】



 ほんっとにあのバカ何やってんだろ?あれほど学校で抜くなって言ってんのに。熱湯風呂じゃないんだからさ?

 あ、逆に言い過ぎたのかな?あたし、抜くなって言いつつ、抜けって言ってたよーなもん?日本語の崩壊ぶりが悩ましい。


 まあとりあえず、帰宅部のあたしはさっさと帰ります。今日の夕食当番あたしだから、スーパー寄っていかないとね。安いスーパーはちょっと遠回りになるけど仕方ない。今日は何が安いかなぁ?




 ◇




 スーパーで買い込んで帰ろうとしてたら、見知ったやつに出くわした。


「あれ?キタローじゃん?何してんの、こんなトコで?」


 金髪モヒカンがビクッとしてる。何キョドってんだ、こいつ?


「は、葉月先輩、チワッス」

 直立不動で挨拶してくる後輩。今時、こんな気合い入った金髪モヒカンはいないよねぇ。北○の拳じゃないんだからさ?時代が時代なら、背中に火炎放射器背負っててもおかしくないよね。


「丁度良かったよ。これ持ってくんない?どうせ暇でしょ?」


 あたしが両手に持ってる袋をチラ見するキタロー。


「い、いや、暇とゆー訳ではゴニョゴニョ」

 なんか視線外してくるな?こいつ。


「ねぇ、持って?」

 顔をぐいっと近付けて囁くように言う。


「は、はいっ持たせていただだだきますです」

 あらら、顔真っ赤にしてるよ。


「ありがと、はい」


「ぐほっ!?」


 袋2つ渡したら目を白黒させてるよ。そりゃ重いでしょ?水やら米やら入ってるもん。

  

「こりゃまた随分と買い込みましたね、アタタタ」


「うん、クーポンがあったからさぁ」


 一応、母親不在の家計を任されてる身としては、クーポンやポイントの類いはキッチリ使ってるんだよね。ホント、バカにならないもん。


「あ、じゃあ、よかったらこのクーポンも使って下さい」

 そう言いながら、キタローがポケットから何か出して渡してきた。


「くれるの?ありがと。何のクーポン?」


「ラブホっす」


「いらねーよ、バカ!」


 あたしは渡されたクーポンをキタローの顔面にたたき返した。


「あだっ」


「アンタさぁ、あたしをバカにしてんの?それとも口説いてんの?」

 

 襟首つかんで睨んだら、キタローは盛大に慌てて出した。


「め、め、め、めっそーもないっス」


「だいたい、なんでアンタがあんなの持ってんのよ?」


「お、親父がオーナーやってるラブホっすよ。他にもいっぱいあるんで」


「アンタの親父さんって、ラブホ経営してんの?初耳なんだけど?」


「それが結構デカイ、チェーンなんすよ。久里グループつって」


 へえ、じゃあコイツ、資産家の坊っちゃんって事?全然そんな風に見えないんだけど。コイツと結婚したら、玉の輿じゃん?まぁ、絶対ありえないけど。


「アンタ、後継ぐの?将来安泰じゃん?」

 

「いや、俺バカだから、経営とかムリッスよ。その分、弟が優秀なんで、弟が継ぐんじゃないですかね?そしたら、弟に養ってもらおーかと」


「あんた、弟いたんだ?今いくつなの?」


「5歳ッス」


 コイツ、5歳の弟に頼るつもりかよ。最低だな。


「アンタ、流石にそれは情けないでしょ?バカでもやれる事ぐらいあるんじゃない?なんかやりたい事ないの?」


「はぁ、そう言えば……うーん、言っていいのかなあ……」


 なんか言い淀んでゴニョゴニョ言ってるな。


「なに?ハッキリ言いなさい」


「あ、はい、今日、葉月さんの親戚の娘に会ったんス」


「あたしの親戚の娘?そんなのいたっけ?」

 えーっと、覚えがないなぁ。遠い親戚は何人かいるハズだけど。


「葉月さんに似た、おっぱいがパねえ娘なんすけど?」


 ‼ アイツかぁ。あのバカ、女の子の時にコイツに会っちゃったのか。なにやってんだよ、まったく。


「で、その娘がどうしたの?」


「ものにしたいなあ、と ぐぼっ」


 気がついたら、あたしはキタローの腹をグーパンで殴ってた。


「アンタ、あの娘に手え出しててみ?殴るからね?」


「ぐはぁ、既に殴ってるじゃないスカ〜。や、やりたい事やれって言ったスヨネ?こ、こればっかりは葉月さんに何言われよーと、諦めないッス」


 コイツ、ここまであたしに逆らったの初めてだな。それだけ本気って事?

 なんかバカのくせに結構真剣な眼差しで見つめてくるけどさ。


 あれ?コイツ、髪型バカ丸だしだけど、顔の作りは意外と悪くないな?

 ちゃんとした髪型にすればそれなりにイケメンかも。


 うーん、コイツと水希がくっつけば、久里グループの一員になって将来安泰かぁ。

 いやいや、絶対渡さない。だって、アレはあたしのモノだもん。




 よし、なら決まりだ。可哀想だけどコイツは潰す。










  【キタローver】

 



 いやあ、まいったわ。

 爺ちゃんの連絡待ってたら、葉月さんとばったり会っちまったよ。オマケにこのくそ重い荷物持たされるしよ?俺と会わなきゃこの重量、自分で持って帰るつもりだったんかよ?ホントこの人、むちゃくちゃだわ。俺、昔のトラウマがあるから、この人に逆らえねぇんだよ。アメとムチっての?しれっと色仕掛けと暴力使ってくるもんなぁ。

 

 まあ、うちのラブホのクーポン渡したのはまずかったな。いや、クーポン好きそーだったからよ、使うかな?って思ったんだよ。

 そーいや、もし使うとしたら相手がいるんだよな?この人だったら、誰と使うんだろ?


「………………」


「あん?ちょっとアンタ、何前かがみになってんのよ?さっきの腹パン痛かった?ごめんね?」


 うわーっ、葉月さん顔近い、近いすわ。コレちっと収まんないわ。いらん想像したらビンビン物語ッスわ。


「だ、だいじょーぶっスから。あんま、近寄るとヤバいッス」


「何がヤバいのよ?」

 

 うぉっ、いいニオイがたまらんっ。これ当分立てねぇ。いや、勃ってるけど。


「スンマセン、ちょっと休憩いいすか?」

 なかなか収まりそーにねぇよ。


「はあ?相変わらず体力ないねぇ、アンタ」


 いやいや、体力余ってっから、ギンギンで立てねーんだよ。ったく、人の気も知らねーで呑気に自販機でお茶買って飲んでんじゃねぇよ。


「ほら、はい」

 うぇ?なに自分が一口飲んだお茶差し出してんだ?


「飲まないの?」


 ええっ、こ、こ、これは間接キスってやつじゃねぇの!?

 ヤベェ、パねぇ、あっ俺両手ふさがってるじゃん?取りたくても取れねえよ⁉


「おい、荷物地べたに置くなよ?ほら、口開けて?」

 

「ほ、ほぇ、ぐほっ」


 言われて口開けたら、ペットボトル乱暴につっ込まれたよ。でも、そのままゆっくり傾けてくれたから、むせずに飲めたわ。


「美味い?」

 そう言ってニッコリ笑う葉月さん。

 あーもう、そーゆートコだよ、俺を悩ますの。

 なんであんな怖えのに、そんな風に笑えんだよ?



 俺、ぜってーこの人に一生かなわねえよ。















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