7.嫌いじゃない、タグお兄ちゃん
ごめんなさい。
なんではじめから謝ってるのかというとね、このまえのロクレイの紹介のときに、髪の色とか、瞳の色とかを書き忘れてたの!
あなたは気にしないだろうけど、大事な人を誰かに紹介するときには、ちゃんと外見っていうものを教えてあげないといけないんだって。
こういうことを教えてくれるのはエヴァンス。
情報は正しく伝えないと、相手に失礼になるよって。
わたしが誰かに大事なことを伝えたいときは、話すだけじゃなくて、書いておくことも必要なことなんだって。
さすが商会の情報係!
でも、大事すぎることは書き残しておくと証拠になっちゃうから、逆に書いちゃだめだって。
うん? よくわからないよ?
あ、えっと、ま、いっか。
わたしがもっと大きくなったらわかるかもね!
ロクレイの髪色はね、わたしが知ってる色の名前だとわからなかったから、セリュフに訊いたことがあってね、樺茶けたような、朽葉みたいな色だって。
樺っていう木はもっと北のほうとか山の高いところに生えてて、季節ごとに色が変わる葉っぱも寒いところに多いんだって。
この辺りにはない植物の色の名前を言われたってわからないよ! もう!
わたしが知ってる茶色よりもくすんでて、渋い色って言われたよ。茶色もいろいろあるんだね。
ロクレイの髪はまっすぐでさらさらしてて、撫でると気持ちがいいから、いろんな人がロクレイの頭を撫でていくの。「おまえの記憶力を分けてくれよ」って言いながら、大きいお兄ちゃんたちもすれ違うときに触っていくよ。
あと、ロクレイの瞳の色はね、深い緑の色の中に杏の色が混ざってる感じ。とても綺麗だけど、前髪に隠れてて他の人にはあんまり見えてないかも。
ふう、やっとロクレイの紹介が終わった。
これであなたも会ったらすぐにわかるね!
ロクレイのことを書きながら、今日は誰のことを書こうかなと考えてたんだけど。
ちょうどセリュフのお使いからタグお兄ちゃんが帰ってきたから、タグお兄ちゃんにするね。
タグお兄ちゃんは、スウィンお姉ちゃんより半年ほどあとに生まれたから、いまはまだ十四歳だけど、もうすぐ十五歳になる。だからもう俺は大人だって言ってるけど、まだ大きいお兄ちゃんたちには力じゃかなわないし、子供だって思われてるみたいで、それをいつも悔しそうにしてるんだ。
怒ってるみたいな顔が多いし、下の子たちがなにかできなかったときにはよく叱られるの。
わたしたちが怒られるときは理由がちゃんとあるから、タグお兄ちゃんのこと怖いなんて思わないけど、大好きかってきかれたら、うーん、嫌いじゃないよって答えるかな。
嫌いじゃないんだよ、ほんとだよ!
わたしたちとはあんまり遊んではくれないけど、大きいお兄ちゃんたちの用事はちゃんと守ってやってるし、リーヴが関係してる用事はなにを置いても頑張ってること、知ってるよ。
ただね、たまには一緒にいてくれたらいいのにって思うの。
村にいるときは、男の子たちの中で一番歳上だから、わたしたち小さい子をずっとずっと守ってくれた。そのときはタグお兄ちゃんもまだ子供だったのに、大人や流れ者の人から怒られるのが自分になるようにしてくれてた。
「早く大人になりたい」っていうのが、タグお兄ちゃんの口ぐせだったよ。わたしたちが聞こえないくらいの小さな声で、悔しそうに言うんだ。
わたしたちの中で、一番の働き者なんだよ、タグお兄ちゃんは。
大好きって言えないけど、大事な人なんだよ。
タグお兄ちゃんに会ったら、子供扱いは絶対にしないでね。
大人にはまだ遠いかもしれないけど、タグお兄ちゃんはすごく大人なんだよ。
わたしたちのお父さんみたいに、頑張る人なんだから!
あっ、また忘れちゃうところだった。
タグお兄ちゃんは茶色い髪の色で、瞳も茶色いの。わたしもよく知ってる色のほうね!
マンダルバの人よりも肌の色は明るいから、間違えられることはないけどよく似てるの。マンダルバの人と北のほうの人の血が混ざったかもしれないんだって。
ムトンに住んでる人って家系とかあんまり気にしてないから、本人もよくわからないみたいだけど、リーヴの見た目に近いのは嬉しいみたい。
タグお兄ちゃんは、村の恩人のリーヴのことを、すごくすごく尊敬してる。
いまはわたしたちのことよりも、リーヴのことのほうが大事だって思ってるのが、よくわかるんだ。
いつか、わたしにも、そういう人ができるかな。
誰よりも、大事だって思える人が。
「リーヴが大好きってことでしょ? それって恋なの?」ってタグお兄ちゃんに訊いたら、「違う!」って怒られちゃった。
「大好き」にも、恋じゃない違う種類があるの?
わたしには難しいよ、タグお兄ちゃん。
「じゃあ、大好きな女の人ができたら、リーヴとどっちが大事になるの?」って訊いたら、「リーヴに決まってるだろ!」って答えだった。
やっぱりリーヴに恋してるんじゃない。
「違うっつってんだろ!」って、ほっぺたつねらないで!
ふふっ、いつもよりほんのちょっとだけ笑って、行っちゃった。
嫌いじゃないよ、大事なお兄ちゃん。
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