6. ロクレイは生きた知識庫!




 まだ会えてない、わたしの王子さま。


 あのね、あのね、このあいだ、学校の試験があったの。

 わたし……

 ぜんぜんダメだったぁ!

 うう……

 お勉強って、大変。

 でもね、これでもがんばったんだよ。

 あなたは、頭がいい人かな?

 それとも、大きいお兄ちゃんたちみたいに、強い人かな?

 両方兼ね備えてる人って「俺みたいな奴だな」ってセリュフが自慢げに言って、ヴィイに頭を叩かれてた。セリュフにそんなふうにできるのはヴィイくらいなんだけどね、でもそれって、本当なんだよ。

 エヴァンスがセリュフがいないときに内緒だよって言ってくれたんだけど、セリュフは組織の頭脳なんだって。商会の給与計算係だってヴィイは笑ってたけど。

 わたしは知ってるよ。セリュフはすっごく頭がいい人だって。なんでも知っていて、誰かになにかを訊かれてもすぐ答えを言えるし、いろんな人といろんな話をしてるし、それに戦士としても組織で一番ってくらいだって、大きいお兄ちゃんたちが言ってたのを聞いたよ。いつも格好を気にしないで髪も髭もボサボサっとさせてて、見た目ではそんなふうに見えないけどね。


 うちにも、すごく頭のいい子がいるんだよ。

 ロクレイっていう、わたしより下の、九歳の男の子。

 頭がいいってみんなも認めてるセリュフよりも記憶力がよくて、すごいのよ! 学校の試験も満点だったの!

 セリュフがなにか忘れてることがあっても、ロクレイはボソッと言ってあげると、セリュフが「早く大きくなって俺を楽させてくれ」って言うの! ふふ、笑っちゃう!

 ロクレイは人見知りで、あんまり笑わないけど、人恋しいみたいで、大きいお兄ちゃんたちが来たら黙ってみんなのそばにいく。イチヤお兄ちゃんやニキがいれば二人のあとをくっついていくし、同じ歳のゴウトはよくロクレイをからかっていじってるけど、人がいないと寂しがるロクレイと一緒にいてあげてるのをわたしは知ってる。

 ロクレイの親はね、他のうちの大人が村を出ていくよりも、一番初めにいなくなっちゃったの。

 見たこと聞いたことはなんでも記憶しちゃって、でも子供らしいところが少なくて、感情があんまり出ないロクレイを親はあんまり可愛がってなかったみたい。

 わたしたちはみんな親に見捨てられたけど、売られなかっただけまだましだったって、セリュフが真面目な顔で言ってたことがある。

 売るって、どういうことかな。芸でも覚えればよかったのかな。

 ロクレイは一度親にどこかへ連れていかれそうになったことがあってね、そのときはまだ他の大人たちもいたから反対されて、ロクレイの親は自分たちだけで村を出ていったの。

 わたしたち子供はロクレイが頭のいい子だって知ってたけど、大人たちには内緒にしてたから、それを知ってたらロクレイは確実に売られてただろうって、セリュフが言ったの。よく黙ってたなって褒められた!

 わたしたち内緒ごとは得意なの!

 だってね、たまに村に流れ者の人たちがやってくるから、子供は外にあまり出ないように子供たちだけで一緒にいてね、どうやって目立たないようにするのかって、それが遊びみたいなものだったの。かくれんぼうね!

 セリアお姉ちゃんは美人さんだから、男みたいな服装して綺麗な髪も布で隠してたし、小さい子は人攫いにあうって注意されてたから一人にならないようにしてたよ。

 イチヤお兄ちゃんより歳上の男の子たちはみんな村から出ていったから、イチヤお兄ちゃんとニキは自分もまだ子供だったのに、タグお兄ちゃんと一緒にみんなを守ってくれた。

 ロクレイは、お兄ちゃんたちがなにかを決めるときには知ってることを言って、お兄ちゃんたちはそれに助けられたって言ってた。

 村の子供だったみんなは、大事なわたしのきょうだいなんだ。


 あなたは、わたしのそばにずっといてくれる?

 わたしたちみんなを好きになってくれるかな?


 早く、会いたいな。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る