第28話 勇者様の再開と溜まった疲れ



 わたしはいろいろと説明するために、教室に戻るのだけれど、その前に戦闘で制服が汚れてしまったので、わたしだけ一度寮に戻って袴に着替えてから教室に戻り、説明を始めた。


「えっと、わたしのおかあさまです」

「エマです。フェノンがお世話になってます」


 いいえ、逆です。わたしが彼らをお世話してたんですよ。


「ドMの変態なのであまり罵らないようお願いします」

「ちょっとフェノンそういうのは……!」


 お母様の呼吸が少し荒くなっていたけど、それは無視した。ここを気にしたら負けだから。


「ごほん。概ねの事情は把握してるので大丈夫です。大体お話をしますと……」


 お母様はわたしの知っていることほとんど全てを説明した。


「「「王子の娘ッ!?」」」

「本当に不本意ながらそうです」


 どうせわたしはあのゴミクズの娘ですよ。

 わたしは両手を後ろで組んで、何もない場所を蹴って拗ねる。


「本当に不本意そうに言うな……」

「それよりフェノンさんの袴姿かわいいね」

「ふぇっ!?」


 あまりに突然的に褒められたので、少し変な声が出た。しかも褒めたのが男子生徒でとても照れくさくて、わたしは顔を下に向けた。


「そういうのはいいのでそろそろ帰って貰えると……」

「別にいいじゃない。せっかくフェノンと仲良くしてくれてるんだからもっと居てもらいなよ」

「え? でもそれだと困るというか……」


 わたしは少しもじもじとしながら小さな声で呟いた。

 クルミさんのお食事が無くなるし、わたしも彼らと付き合うのは少し疲れるし……


「フェノンくん、もういいさ。彼らには残って貰った方が助かるからね」

「クルミさん!?」


 何故かクルミさんが教室内に入ってきた。そしてクラスメイトたちは驚いた顔をしていた。

 真っ先に立ち上がったのは生徒愛の塊である副担任美紀ちゃん


「田村さん生きてたんですね!?」

「なぜ私が死ぬ?」


 クルミさんが王家の事情を知らないのを思い出したわたしはクルミさんに軽く説明した。


「なるほど、私は自殺したのか」

「言い方を考えてください」


 そして我慢が出来なくなったのか涙目になりながらクルミさんを抱きしめる副担任美紀ちゃん

 でもクルミさんの方が背が高くて、美紀ちゃんは新米教師なので不思議とクルミさんが保護者のように見えた。

 わたしはその光景が少し面白くて肩を震わせる。


「フェノンくん笑ってばかりいると恥ずかしい思いをさせるよ」

「すいませんでした」


 すぐに謝った。するとクルミさんのイヤらしい笑みが見えた。嫌な予感しかしない……


「フェノンくん? 許して欲しければ『はい』と言うんだね」


 やっぱりそれかッ!!

 クルミさんは今にも早く言えよという顔をしている。お母様もわたしが『はい』と言えないのを知っているので、にやけてわたしを見てる。その片手には撮影器があった。撮る気満々である。

 でもわたしは言うしかなかった。自分で羞恥の道を歩むしかなかった。


「……あい」


 わたしのその言葉が教室中に響いた。周囲が少しざわめき始めた辺りでわたしは羞恥の限界を迎えてその場でショートした。


「フェノンっ!?」


 それから小一時間ぐらい経つと、わたしは目を覚ました。

 わたしの首元には吸魔石があったので、恐らくお母様が新しく用意してくれたのだろう。けれど、周囲を見回してもお母様の姿はなかった。


「おかあさま?」

「フェノンくんのママンなら王城に行くと言ってたよ。それでフェノンくん、早速相談なんだが……」


 クルミさんの相談というのは現在の生徒会のメンバーを一新して、勇者様方をゴミのようにこき使って利用するというものだった。

 確かに日本の生徒会の知識がある人の方が助かる。この学園にはない役割とかも手伝って貰えるかもしれない。


 クラスメイトと領主へのお願いはクルミさんからしてくれるそうなので、わたしは元生徒会メンバーへの説明をすることになった。けれど、全員あっさりとOKを出した。理由は全て「元々そんなに仕事してないし、会長大変そうだから……」だった。


 じゃあお前らが手伝えよッ!! というツッコミは心の中に収めておいた。ついでに何も仕事しない先生にも「お前クビ」と一言突きつけてきた。


「そういうわけでよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくな」

「お世話になるからね。これぐらいしないとねっ!」

「フェノンさんも何かあったら先生を頼ってくださいね」


 こうして新しい生徒会メンバーが決まったのだった。

 それからわたしの労働時間は一気に減った。

 そして、休日を部屋で優雅に過ごすことができるようになった。

 だけどお団子がないので、お団子を買うために学園を出ようとすると、校門前の売店に見覚えのあるお団子屋さんがあった。


「お団子~お団子いかがですか~」

「みたらし3つとあんこ1つください」

「フェノンちゃん、いらっしゃ~い。銀貨1枚ね~1つサービスするよ~」


 なんとツバキさんは端数を値引きしてくれた。わたしは銀貨を支払って、お礼を言った。


「気にしないで~それよりだいぶ疲れた顔してるね~ゆっくり休んでね~。あっ、これリアに上げといてくれる~?」


 わたしはツバキさんからパックに入ったお団子を受け取った。


「わかりました。お団子ありがとうございます」

「また来てね~」


 わたしはお団子を持って寮に帰った。


「リア、これツバキさんから」

「ありがとな。……ホント、今日はゆっくり休みな」


 リアが凄い憐れみというか同情というか、そんな目でわたしを見てくる。


「え? わたしそんなに疲れた顔してる?」

「かなり疲れた顔してる。とりあえず座りなよ。お茶淹れてやるから」


 わたしは座布団に座って早速お団子を頬張る。


「おいしい……」

「そっか。俺も久しぶりに食べるとするか」


 リアとゆっくりお団子を食べた。リアはお団子を食べ終えるとちょうど部屋に戻ってきたエリーを誘拐して部屋を出ていった。何も考えないでゆっくり休めという意味らしい。


「せっかくだから寝かせてもらおう……」


 わたしは袴から寝間着のワンピースに着替えて布団に入るとすぐに眠くなって、寝てしまった。恐らく相当疲れていたのだろう。

 それからしばらくしてわたしがトイレから戻ってきた時のこと。


「あれぇ……?」


 視界が歪む。そして、気がついたら地面に顔をつけていた。

 そのタイミングで何処かに出かけていたリアとエリーが部屋に帰ってきた。


「フェノン寝てるか?」

「おか……え……り……」

「リア……床って冷たくて気持ちいいね……」

「言ってる場合か! さっさと寝てろ!」


 わたしは布団の中に運ばれたのだった。

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