第29話 衰弱フェノンちゃん


 床に顔を当てて気持ちいいと呟いたわたしはリアとエリーによって布団の中にぶちこまれた。


「凄い熱っ……」

「とりあえずクルミさんならなんとかできるか?」


 リアは部屋にあるクローゼットの1つを開けた。エリーはリアが何をしてるのかわからなかったので、首を傾げた。


「クルミさーん! フェノンが!」

「やれやれ、今度はなんだというんだね」


 クローゼットからクルミさんが出てきたことに驚くエリー。驚きのあまり、声すらも出なかった。

 クルミさんはわたしのおでこに頭をくっつける。


「熱だね。疲労によるものだと思う。氷水を染み込ませたタオルでも頭に乗せて安静にしてればすぐに収まるさ。お粥を用意してあげよう。フェノンくん、食べられるか?」


 わたしは小さく頷いた。身体を動かすのがとにかくダルい。どうしても頭がぼーっとしてしまう。


「わかった。すぐに用意しよう。エリーくん、手伝ってくれ」

「は、はひ!」

「君も『はい』と言えないのか……?」


 わたしの顔は別の意味でさらに赤くなる。そして耳まで真っ赤になった。けれど、何か言うことすらツラい。

 それからクルミさんがお粥を持ってきてくれた。


「お粥を持ってきた」


 クルミさんはわたしを起こしてお粥を食べさせようとするけど、わたしは横に倒れそうになる。


「おっと。ここまで衰弱してるのか。何故食欲だけあるんだ……私が抑えているからリアくん、食べさせてやってくれ」

「お、おう……ほらフェノン、ゆっくり食べろ」


 リアがお粥をすくってわたしに食べさせようとするけど、クルミさんに止められた。


「待て、量が多い。病人なんだ1度に食べられる量も考えろ。それにそのまま食べたら熱いだろ。息で冷ましてから食べさせるんだ」

「わ、わかった……」


 リアはお粥をすくい直して、ふぅーふぅーと息を吹きかけてわたしに食べさせる。その時リアの顔は少し赤かった。ふぅーふぅーが恥ずかしいのだろう。

 それを繰り返してわたしはお粥を食べきった。


「リアくんもなかなか面白い反応をするな。今度二人で遊ぼうじゃないか」

「断る。フェノンみたいになりたくない」

「しつれいな……ゲホっゲホっ!?」


 少し喋っただけで噎せてしまった。リアは慌てて横に倒れそうになったわたしを支える。


「大丈夫か!? お前もう喋るな。ゆっくり寝てろ」


 リアはゆっくりとわたしを布団に寝かせた。わたしは小さく頷いて目を閉じた。


「とりあえず氷水で濡らしたタオルを用意してくれ」

「エリーは氷を出してくれ、俺は水を出す」

「わ、わかったよ」


 エリーは氷魔法を、リアは水魔法を使って氷水を作った。そしてタオルを染み込ませてわたしのおでこに乗せた。


「じゃあ俺たちもお昼にするか。クルミさんはどうする?」

「私は新生徒会メンバーに文字や言葉を教えることになっているから、お昼は先に食べてしまったんだ」

「そうか。じゃあエリー、食べに行こうぜ」


 リアとエリーは食堂へと向かって行った。

 その頃、わたしの頭はぼーっとするし、視界は歪み、身体はダルい。


「といれ……」


 わたしは布団から出て、部屋にあるトイレに入った。

 便器に座るとお腹を下して、下痢を出した。


「っ!?」


 水を流すと今度は吐き気がする。そして予想通りリバースした。

 ここまで自分の体調が悪いと疲労ではないナニカなのではないかと疑ってしまう。


「ゲホっゲホっ!? はぁ……」


 深いため息をついた。トイレから出ると視界が安定せず、ふらふらした。


「はぁはぁ……」


 呼吸がツラく、マスク買い占め事件を引き起こしたウイルスかと思ったけど、それは気のせい。この世界にその病気は存在しない。


「あっ」


 わたしは何もないところで転んでそのまま倒れた。

 するとそのタイミングでちょうどリアたちが帰ってきた。


「フェノン!? しっかりしろ!」

「リア、なんかおかしい……ゲホっゲホっ!?」


 わたしはリアにしがみついた。無理に喋ろうとするとどうしても咳き込んでしまう。無意識に身体が震える。


 こわい━━━━━━━━




 こわいよ……助けて━━━━━━




「フェノン……? 大丈夫だ。心配するな。フェノンは疲れてるだけだから……な?」


 リアはわたしを抱きしめて頭を撫でる。するとわたしは安心するかのように眠った。


「とりあえずどうすれば……」

「リアちゃん、お待たせ。お母様の到来よ」


 リアが振り返るとそこにはお母様の姿があった。


「エマさん……」

「フェノンを貸して」


 リアはわたしをお母様に託した。するとお母様はわたしの体温や魔力量などを調べ始めた。


「『急性魔力疾患』ね……」

「ソレ何なんですか?」


 エリーがお母様に訪ねた。お母様はわたしを布団に寝かせて説明する。


「運動って全くしないと身体が鈍るでしょ? それで無理すると筋肉痛になる。それと同じで魔力も全く使わない状態でいきなり大量に使えば反動が起こる。

 『散魔期』の終盤だったら大丈夫だったんだけど、始まったばかりだったからね。余計に反動が大きいのね。安静にしてれば数日で治るけど……苦しそうね━━━━」


 わたしは息を荒くして汗をかいて布団を剥いでいた。


「あまりやらない方がいいんだけど……仕方ないからフェノンの時間を戻しましょう」

「そんなこと出来るんですか!?」


 エリーはお母様のチート具合を知らないので驚いていた。お母様の時間魔法は100年以上前にまで戻すことが出来る。けれどその反面微調整が難しいのだ。下手すればわたしは受精卵になる直前の状態にまで戻る。それより前には戻れないので戻らないらしいけど、その場合、間違えなくわたしは……消える。


「フェノンの時間を戻すのを少しでも間違えたらフェノンの記憶と周囲の記憶が噛み合わなくなる場合もある。それどころかフェノンは突然部屋に転移したと思いこむ。だからあまりやりたくないけど……さすがにこれを見過ごす親は居ないわ」


 お母様はわたしに時間魔法をかけた。

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