第25話 エウロパの目的

 女神は、ちょこまかとよく動き回るエウロパを必死に捕まえ、魔力を与えた。

「ほんと、底なしですね」女神が感心する。「魔力の限界値は、アランやダンテよりも遥かに上かもしれません」

 私は黙って女神の言葉に耳を傾けた。

「初めてこの世界に降ってきた時は、魔力を持たないただの少女でしたが――はい、終わりましたよ」

 女神がオーロラの輝きをしまい込む。ぶすっとしていたエウロパが表情を明るくし、いつもの如く、どこかへ駆け出す。

「あの子が現れた時から、新たな脅威の話は、私達にとって周知の事実でした。ダンテはご存じでしたか?」

「いいや」


 勇者と戦う前の話であろう。魔王が敗れると知っておれば、あえて戦いを挑むようなことはせんだろうな。


「ええ、そうですね。不躾でした」

 女神がこちらをちらりと見る。私を気づかっておるようだ。

「構わん」

 女神は軽く頷き「すみません」と声を発する。「魔王討伐が事実となったことで、新たな脅威は現実味を帯びました。根拠はそれだけではありません。不思議なことに、転移者はこの世界を映像で見たことがあると節々に語るのです」


 ほう。美月も私をどこかで見たことがあると語っておったな。


「転移者は未来人やもしれん」

「未来人?」女神が反復する。

「未来からの来訪者をそう呼ぶらしい。余計なことかもしれんが、宇宙から来た何某は宇宙人だそうだ」

「翔がそう語ったのですか?」

「ああ」私は頷いた。「お主が転生させたのだろう?」

「そうです。彼は私の境遇を反映しているはずです。他には、何か話していませんでしたか?」

「翔の世界で宇宙人とやらは架空の生き物だそうだ。本能的な行動しかとれない生命体でない限り、宇宙人の来訪には何か理由があるはずだと申しておった」

「エウロパは何かしらの目的を持って行動しているはず……。そういうことでしょうか?」

「そのようだな」

「目的があるとしたら、それは何でしょう」女神が呟く。


 エウロパと共に過ごす限り、無邪気な子供にしか見えん。目的なく遊んでおるように思えるが、本能的には何かを探し求めておるのか。

 

「あの子は魔力配達のメンバーではありませんでした。突然、ダンテとアランの前に現れたと聞いています」

「そうだ」

「急なことだったので、私も驚きました。あの子が魔力配達を志望する理由はわかりませんでしたが、あの子が希望するのであればと思い配達員に選びました。それに」女神が私を見つめる。「あなたの改心にも、よい影響を与えそうだとアランが話していました」


 女神は、私がエウロパからチョコレートを受け取った話を頭に思い浮かべておるのだろう。端無くもあの時、私は心を動かされた。


「もしかすると、配達を志望したあたりに、エウロパがこの世界へやって来た理由があるのかもしれません。そう思いませんか?」

「ああ」私は相槌を打った。「昨日さくじつの早朝、エウロパはここにおったのだろう?」

「あなたがボヨヨンバブルを発動した時のことですか?」女神の表情が微妙に変化する。

「そうだ」私は、女神の笑い出しそうな顔に構わず返事をした。「あの時の出来事が、きっかけではないのか?」

「ええ、確かに」女神が真顔になる。「あの時、何かが、あの子を惹きつけたかもしれません」


 つまり、ここ謁見の間で、作業着姿の私は、女神に魔力を与えられ気が狂い、ランダム魔法とやらでバラの花を出し、そして、ボヨヨンバブルを発動し、無意に弾む様子を女神に録画され、因縁の勇者と対面し、無論、勇者の時魔法に抗う術のない私はここから引きずり出された。その一部始終をエウロパは見ておった。

 私にとってはつらい思い出ばかりであるが、かの出来事に、エウロパの求める何かがあるやもしれん。それは、エウロパが宇宙人であることが関係しておるのであろうが……、皆目見当もつかぬな。

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