第18話 全員集合

 その男は、既に作業着姿だった。

 これで、私と勇者と異世界転生者はおそろいの服を着ておることになる。

 異世界転生者は「はじめまして!」と大声を出すと、上半身を直角に曲げ、深々とお辞儀する。

 つんつんの黒髪と黒い瞳。対して肌の色は白さが目立つ。たいぶ若そうだ。

「翔といいます! さっき、この世界に転生してきました! 右も左もわかりませんが、どうぞ、よろしくお願いします!」

 よろしく、という声が、ばらばらに聞こえる。

「それじゃあ、全員集合したわけだし、まずは自己紹介しようか」勇者が、全員の顔を確認しながら、話し始める。

「じゃあ僕から。僕はアラン・マックスウェル。今は、魔力配達のメンバーだけど、前は勇者をやっていました。特技はとき魔法、かな? まあだいたいの魔法は使えるよ」

 勇者という言葉に反応したのは、異世界からやってきた翔と美月だけだ。

「勇者って、この世界にはたくさんいるの?」

 手を挙げながら翔が尋ねる。

「いや。僕だけだよ」

「ええまじか」と、翔が声を漏らす。

「ん?」と勇者が聞き返す。落胆した様子の翔を不思議に思ったらしい。

「いや」翔が後頭部に片手をやる。「てっきり俺、勇者にでも転生したのかなと思って」

「ああ、そういうことか」勇者が頷く。


 会話をうかがう限り、翔はまだ、配達のことを聞かされておらぬようだ。転生してきたばかりで時間が取れなかったのかもしれんな。ただし、作業着に着替える時間はあった。


「残念ながら、倒すべき魔王もこの世界にはいないんだよね」

 そうだな。魔王はもういな……い? 私は勇者に視線を投げる。

「え? じゃあ俺、何すんの?」

「今はとりあえず魔力の配達なんだけど」

「はいたつぅ?」

「具体的にやることと言えば、配達なんだけど、視座を変えると、迫りくる脅威に対する準備、といえなくもないかな」

「ふーん」

 翔が口を尖らせながら、両手を頭に置く。

「うん」とひとつ勇者が頷く。「悪い魔王はいないけど、い魔王はここにいるんだよね。はい、じゃあ次はダンテ」

 こやつ、ろくでもない前置きをしよったぞ、と思いながらも、私はを開けず、自己紹介を始めた。

「ダンテだ。魔王だった。勇者との戦いに敗れ、ここにいる。今は、魔法が使えん」

「使えるけどランダムになっちゃうんだよね」と勇者が、言葉を挟む。


 そうだ、うぬらのせいでな。


 勇者へ注いでいた視線を他のメンバーへと移す。どの単語に驚いたのかわからぬが、翔は私を見て口を開け、美月は目を見開いている。

「ま、魔王様……でしたか」

 口を開いたのは翔だった。どういうわけか、身を縮めている。

「今は見る影もないがな」

「そう。今はただの配達員だね」

 私と勇者のやり取りに、翔が「はあ」と言葉未満の息を漏らす。

「それじゃあ、次は翔の番」

「えっ、あ、はい!」

 翔は、丸くしていた背中をピンと伸ばし、気を付けの姿勢をとる。

「俺は、山田やまだ翔です! さっき異世界転生してきました。前は日本ってところに住んでて、大学生でした。えっと、二十歳はたちになったばかりです。ここへ来たのは、トラックにかれそうになった子猫を助けようとしたら、自分が轢かれちゃった……みたいな感じです!」

 ははは、と笑う姿に悲壮感が漂っておる。

「でもまあ転生できてよかったーって感じです。えっと、そんな感じです!」

 勇者が拍手をする。それにつられ、クレアや美月も、拍手を送る。

「次は、クレア」

「はい」と小さく答え、クレアが立ち上がる。「私は、元女神のクレアです。自慢できるほどの、特技はないですけど、エレネネウス様から、ひとつだけ、女神の魔法を授かっています。後でお見せしますね」

 そういうとクレアは私を見て微笑む。


 女神から授かった魔法が何かわからぬが、何故か胸騒ぎがする。


「じゃあ、次は美月ね」

 今度は、美月が立ち上がる。

「はい。私は美月と申します。異世界から転移して参りました。転移する前は、有閑な日々を過ごしておりました。なので、働いたことはありません。配達が務まるかどうか不安ですが、精一杯、頑張りたいと思います」

 一礼する美月に、全員で拍手を送る。

「最後、わたしー」

 エウロパが、ソファから飛び上がる。六人の中で、最も幼い。

「エウロパです。おそらから来ました」


 そうだな。

 流れ星に乗ってきたのだろ。


「おそらって?」

 そう尋ねるのは、翔である。

「おそらはおそらだよ」というエウロパ。

 エウロパの回答に、勇者が補足する。

「エウロパは空をもっと天高く昇った世界から来たんだ」

「それってつまり、宇宙ってこと?」

「宇宙?」

 勇者が、難しい表情を浮かべる。


 おそらく勇者は、宇宙という聞きなれない言葉の意味を考えているのだろう。この私も、宇宙という言葉は耳にしたことがない。


「空を抜けたら、そこは宇宙なんだけど……。そこから来たってことは、エウロパは宇宙人だね」

「宇宙人とは何だ?」そう尋ねたは私だ。エウロパの正体が気になっていた私は、自然と口が開いた。

「えっと、何て言えばいいんだろう。うーん。よく映画とかに出てくるんだけど、そんなこと言ってもわかんないよな。まあ、この星以外に住んでいる生命体ってとこかな」

「なるほど……、宇宙人か」

 いつになく真剣な表情でそう呟くのは、ほかでもない勇者だった。

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