第16話 流星

 私以外の四人は、三々五々、邸宅内へ姿を消した。邸宅といえども外観はただの正方形だ。その屋上は、所狭しと草花が植えられ、緑化が進んでおる。私には似合わぬな。

 美月を転移させた空間は、謂うならば転移の間であろう。つい先ほどまで、そこで、石板をのぼり続けておったが、今はサレスにおる。南国の地、サレスは海に面した美しい街のはずだが、今は暗く何も見えん。

 誰もが寝静まり、物音ひとつが、周囲に響き渡る。そんな静寂の中で、私は、腕を組み夜が明けるのを待った。

 

 王宮で、女神と対峙してから、ここへ来るまで二日ほど。

 うむ。まだ二日しか経っておらぬのか。なんと濃厚な二日間か。


 私は、目前の真っ暗な海に焦点を合わせ、考えを巡らせた。

 魔王軍と勇者軍の戦いが終結し、勇者に生かされた私は、訳あって魔力の配達に従事しておる。

 勇者や女神の望む私の更生とやらは、癪なことに、うまく進んでおるようだ。無論、この私の精神力が際立っているからこそであろうがな。

 しかし、このまま勇者らの思惑通り事が運んだとしても、この私が魔法を取り戻した瞬間に、再び敵となる可能性も捨て切れぬはず。その危険を冒しながらも、私を幽閉するわけでもなくある程度の自由を与え、魔力配達に従事させた理由は、何か裏があるのかもしれん。勇者は確か、この世界を守る云々と申しておったが、あれはどういう意味であろうな。

 その時、視界の端に、一筋の光芒が走る。

 あれは、流星か。

「流れぼしー」

 私のすぐ横で、声が上がる。

 驚いて目をやると、そこには、エウロパの姿があった。ピンクのネグリジェを着ておる。

「目が覚めたのか」

「うん」

「あれはどこから来るのだろうな」

 もう流れ星は、消えてしまった。消えた光の軌跡を探しながら、私は言った。

「おそらだよ」

「お主がいたところか」

「そうだよ」とエウロパいう。「真っ暗で寒いの」

「そうか」

 また一つ、夜空を流星が走る。

「あれに乗ってきたのか」無論、流星に乗ってきたのかと尋ねたのだ。

 エウロパは、ふふん、と笑って、こう答えた。

「ないしょ」

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