赤く熟れた林檎色の
改めて周囲を見ると、クルワズリの街は全体的にセピア色がかって見える。そして、焼き魚よりも半生か、生魚を提供し、それを調理してサンドイッチにしたり、海鮮丼にして売ったりしている店が多い。
ジークフリートは両親がジャポニズム(日本趣味)だったため、幼い頃から家庭料理に海鮮丼や納豆が出ることが時々あったので、こういった独特の風味や匂いに慣れていたが、アルベリヒは生魚に未だ慣れていないので、オイルで焼いたアクアパッツァを提供している店がないものかと、眉を顰めて不機嫌そうに首を左右にゆっくりと動かして探している。アルベリヒには、先ほど共に食べた海鮮丼は合わなかったのだろうか、そうだとしたら申し訳のないことをしたな、とジークフリートは、心の片隅に僅かな罪悪感を感じて親友の横顔を、ちらりと見た。
すると、再びその遥かに下方から、きゅう、という狐の鳴き声のような音がする。視線を移すと、アカネがさらに頬を赤らめて腹を抱えて俯いていた。彼女のこめかみを流れる切り揃えられた黒髪が、さらりと桃のような頬を撫でる。
「なんかごめん……」
「いや、いい。お前たちとは一度じっくりと話したいと思っていたんだ」
「……」
アカネはちらちらと大きな眸でジークフリートを見たかと思えば、小さくため息をついて地を見て、再び彼を見上げる、といったことを繰り返す。
「……?」
ジークフリートは訝しんで眉を僅かに寄せてアカネを見る。
アカネは何か迷っているように、ぽってりと厚い桜色のくちびるをもごもごと動かしていたが、やがてそれを一文字に引き結ぶと、もう一度瞳だけを動かし、ジークフリートを見上げた。青く小さいが切れる瞳と、琥珀色の瞳が再びかち合う。
(本当に大きな瞳をしている)
ジークフリートは素直にそう感じた。何かに悩んでいるアカネの表情は、先ほどアルベリヒと口喧嘩をしていた時よりも憂えて、大人びて見える。彼はそこに妹が大雪の降る冬の日に、薄く凍った窓を見つめた後、彼を見上げた薄暗い影を宿した白い顔を重ねていた。
「……そういえば、ブロンドのにいちゃん。あんたにお礼、ひとっことも言ってなかったなって思って」
「ああ」
(なんだ、そんなことか)
ジークフリートは思った。
告げた後に、アカネは恥ずかしそうにくちびるを噛み締めると、さらに頬を赤くする。熟れた林檎のようで、触って撫でてやりたかったが、寸でのところでジークフリートはその感情を押し殺した。
「ありがとな」
アカネは吐息か言葉かわからないほどの小さな声音で感謝の意を告げる。
ジークフリートは、彼女の頬がさらに赤く染まって火照りで落ちてしまうことを防ぐために、わざと聞こえないふりをした。
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