コンクリートの森

アスファルトの照り返しが眩しいんだ。

「打ち水をしてよ」

レインの声が耳の中に響いた。

あたりを見渡す僕。

誰もいない。わかっていたことだ。

ねえ、レイン。どこに行っちゃったんだい。

ずっと僕のそばにいるって言ったじゃない。

逃げるように街の奥に向かって歩いて行く。

ここまでくると、日差しも届かない。

重慶森林。僕はコンクリートの森の中を、

漂いながら彷徨う。

締め切ったシャッターの前に座り込んでいる男。

その向かい側に立ち、タバコを吸う男。

何やらわけありの、着飾った女。

明らかにウィッグと分かる、金髪の女。

その女の肩越しを横切る、黒いロングコートの女。

あの時見失った、あいつじゃないか。

僕はロングコートの女を追いかけながら、

レインに電話をする。

「レイン見つけたぞ。あの女だ」

出るわけがない。呼び出し音さえならない。

僕はケータイの画面を見る。

ここは圏外なのか。

恨めしそうに上を眺めるけれど、空は見えない。

よからぬモノが降ってきそうな予感がして、

素早く通り過ぎる。

そうなんだ、僕はあの女を追っているんだ。

見失ったじゃないか。

どうして天を仰いだ。どうして。

急にあたりが明るくなる。

また眩しい日差し。

ケータイが激しく震える。

僕は画面を見る。圏外じゃなかったのか。

電話に出ると、聞き覚えのある笑い声。

「元気そうだね」

「レイン。いまどこなんだい」

「ペプシのふたが開かなくてさ」

「プルトップが固いの」

「違うよ瓶のふた」

「自販機で買ったの」

「そう、自販機」

「それじゃ、自販機についてるよ。栓抜き」

「回すんじゃないの」

「回しても開かないと思う」

「うん、わかった。ありがとう」

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憧憬 阿紋 @amon-1968

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