Communio 3

 空が徐々に藍色を帯び、夕暮れを過ぎ夜の近づきを感じながら、ハルカはようやく遠くに詰所ステーション周辺の見慣れた地形を確認するとともに、その上空にかなりの数のドラゴンと、戦闘中の「V」を見つけた。

 ドラゴンの群が、ハルカたちを見つけてこちらに近づいてくる。

「望むところ! 全員まとめてぶっ潰す!」

 エレナはふわりと速度を緩めると、さっと上方に飛び上がり、急降下と共にドラゴンのうちの一体の頭に鎚矛メイスを振り下ろす。竜段レベル5に迫るほどの大きな躯を震わせながら、ドラゴンは地面に墜落していった。

 ハルカに向かってきた二体のドラゴンは、瞬く間に襲いかかってきたその腕を斬られ、そのまま腹を切り開かれて墜ちていった。

 だが、それに気づいたドラゴンたちは、後から後からハルカたちに迫ってくる。

「ハルカ! あなたは詰所ステーションに戻って大佐の指示を受けて!」

 エレナはドラゴンを一体ずつ殴りつけながら、ハルカを詰所ステーションへの連絡坑へ導く。

「今戦ってるのは、第四と第五の子たちも結構いるの」

「じゃあ、彼らを助けるの?」

「そう。あのままじゃ全滅するでしょう。その前に大佐にどうするか聞いて!」

「わかった」

 エレナが力ずくで開けた道を、ハルカはさらに切り開いて地上へと急降下していく。ドラゴンのどす黒い体液を浴びないように注意深く、確実に殺しながら、ハルカは器用に連絡坑の扉を開けて、中に降りた。

 エレベータを抜けた先の詰所ステーションは非常事態仕様になっていて、常に深夜と同様の照明になっていた。道の要所に赤色灯がともっているので、単なる深夜帯ではないことはすぐにわかる。けれど、内壁のどこにも損傷は見られないし、少なくとも一般居住区に影響はない。もっとも、内部にドラゴンが入り込んだら陥落は免れない。一般人はとても無力であるし、ドラゴンの吐く炎は内壁を構成する強固なコンクリートの力を弱め、地圧に耐えられなくなって崩壊を引き起こす。だからこそ、エレナは残ったのだし、内部に「V」が入らないのも、おそらくは万が一のことを考えてホウリュウ大佐がそう判断したのだろう。たとえ戦力になりにくい第四部隊や第五部隊の「V」であっても、ドラゴンになってしまえば脅威となりうる。「V」の構造を知った今なら、ハルカでも理解できることだった。

 ようやく司令層までたどり着いたハルカは、司令室の認証カードをかざそうとして異変に気づいた。

 電源が入っていない。

「どういうことだ……」

 一か八か、近づいて開けようと手をかけると、扉はすっと簡単に動く。

 今となっては世界最大の機密を持つ詰所ステーションの司令室の扉をロックさせないなんてことが、レイ・ホウリュウにあるだろうか。と、ハルカは訝しんだが、今はそのホウリュウを探すことが先決である。

「守衛長! 戻りました! サエグサです!」

 声をかけながら中に入っても、司令室にはホウリュウはおろか、誰もいない。

 明らかにおかしい。

 守衛として消えていなかった勘と、今までの「V」としての勘が全力で危機を知らせている。そもそも、このような事態に守衛が一人も司令室に座っていないことがおかしい。まして、死体もない、ということは、どこか別の場所にいるということである。

「守衛長! いらっしゃるのであれば返事をしてください!」

 ハルカはなおも声を張り上げる。しかし、当然のことながら返事はなかった。

 周りに人がいないことを確認すると、ハルカはホウリュウ大佐が座る机に駆け寄った。

「何だ、これは」

 その机の上には、「サエグサ・ハルカ曹長へ」と書かれた長いメモが置かれていた。

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