Agnus Dei 10
やはり静かな作動音が響いた後で、装置は回答を始める。
「質問に答えよう」
「ドラゴンとは、私が新たに発見したことになっている生物である。鋭い鉤爪を持つ四肢、長い首、火器にも耐えうる硬い鱗、そして長い首が特徴で、それはかつての神話や小説、伝奇などで言い伝えられているそれに酷似していた。いや——」
機械は、もったいをつけるようにそこで少し止まり、作動音を少し高く鳴らした。
「より正鵠を期すならば、酷似させたと言うべきである。ドラゴンは自然界に存在しなかった生物であり、Vの最終形である。すなわち——」
「えっ」
「ということは……」
「全てのドラゴンは、人間が変化することによって誕生する。その大元は人間である。そして、人間を変化させ人為的にドラゴンにする技術を——かつて、若さと傲慢さを纏っていた私は——秘密裏に作り出した」
ふたりは驚愕した。
ハルカは、この事実を知っていながら、「V」になる前に条件付けによって削ぎ落とされていたことに、さらなる衝撃を受けた。
「核兵器を圧倒する、文字通り人智の限りを尽くした生物兵器の最終形。それがドラゴンの正体である」
「それで、ドラゴンは人だけを襲うのか」
「最初からそう、設計されていた。ということだね」
「ドラゴンは最終形であると同時に、失敗作でもある。彼ら、もしくは彼女らは人間に関するもの全てを本能的に破壊するようになった。それは、制作者の私も意図していないことだった。強力な兵器であるが故に各国にドラゴンの製法が行き渡ったころ、その最初の被害を受けた国が、当時存在していた
「ドラゴンから国民を守るために、各国はかねてから宇宙線対策で構想していた地下シェルター計画を本格的に稼働させ、人間は十数の都市に分かれて、元は人間であったドラゴンを撲滅させるため、あらゆる手段を講じた。その中で、ドラゴンを生み出した私が作り出したのが——Vである」
ドラゴンがいて、その後に「V」が作り出された。それは確かに間違いではなく、
「ドラゴンへの対抗手段として生み出された強化人間たるVの製法は、今度は公然と各都市で共有された。各都市は、ドラゴンに対抗するという名目の上でも、他の都市の利権を排斥するという本質の上でも、より強力なVを製作するようになる」
「ドラゴンがどんどん大きく、強くなっているのはそういうことなのか……」
「ドラゴンに対する対抗力として各都市がVを抱え込み続ければ続けるほど、その最終生産物であるドラゴンの数は増える。ゆえに、いったんこの地球に解き放たれたドラゴンという種族は、人間が存在し続ける限り永久に存続し続ける運命にある上、徐々に種族全体が強化されていく運命にある。——ドラゴンについての説明は以上だ」
その言葉を待っていたハルカは、最後の質問を入力する。
「『
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