Agnus Dei 9
「その質問に答えよう」
画面に文字が表示され、ハルカたちは思わずのぞき込んだ。
「そういえば、『V』って何の頭文字なんだろう」
「
「
そのふたりの疑問は、すぐに答えられる。
「V。それは、人間が生み出した生物兵器の最終進化系であり、制作者である私が名付けた。——『
「えっ」
「
意外な単語の頭文字がそれと知り、ふたりはやや動揺した。
「彼ら、もしくは彼女らは人間に奉仕し、使役され、そして自らの最終形であるドラゴンになり果てるか、その最中に戦死する。初めから人としての死を約束されていない点が、
オガシラ・マサルの意識は、淡々とふたりに説明をしていくが、それが予想とはかけ離れたものであったがために、ふたりは呆然とするしかなかった。
「Vの兵士たちは、ドラゴンへと変化する中途の、人間の意識を残した状態に留められている。彼ら、もしくは彼女らは、人間とドラゴンの中間と言えなくはないが、私としては、人間にかろうじて踏みとどまっているだけの存在と定義する。故に、適合した者だけがVとなり、その適合を外れた者はドラゴンとなる。その意味では、Vはドラゴンの上位に属する新たな種族であるといえる」
「どういうこと……」
「ねえ、もしかして……」
フミコの言っていた本当の意味を、ハルカは理解しつつあった。そして、それを完全に理解してしまえば、もう元に戻れないことも直感した。
しかし、その直感を察知したかのように、
「Vに関する説明は以上だ」
オガシラ・マサルはきわめて機械的に——とはいえ本当に機械となり果てているのでそれは当然であったが——説明を打ち切った。人間で言えば、口を噤んだという表現が正しいだろう。
「他の質問を入力したまえ」
ハルカは、おそるおそる——オガシラ・マサルの思惑通りであることを理解していながらなお——次の質問を入力しようとした。
「ちょっと待ってハルカ、あたしわけわかんない」
セリナはハルカの腕を止める。
「オガシラさんは、僕——コウサキ・アヤノかその意志を引き継いだ、少なくともVではある何者か——がここに来ることをわかっていた。ということは、僕たちは最後まで、彼の説明を聞く必要がある」
「最後ってなに? もしかして、ドラゴンとVと人間の関係全部ってこと?」
セリナは焦った。せっかく、ようやく近づけたはずのハルカが、また遠くへ向かってしまう。けれど、もう追いつける速度ではない。
「たぶん、そうだと思う。その上で、僕らがどうするかをこの人は気にしているんだ」
「でも、あたしらがどうするかなんて、わかるのかな。もう、この人死んでるんでしょ?」
「おそらく、僕の考えが正しければ——」
そう言ってハルカは入力する。
「ドラゴンとは何ですか?」
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