Agnus Dei 8
真っ暗で黴臭い内部からは、人間が住んでいる気配はない。
もっとも、生きていたとしてもかなり高齢であるから、人がひとりで住むには広大すぎるこの空間を部分的に放棄しているだけかもしれない。
ハルカはそう考えながら、セリナに火をともすよう促す。
オイルライターから小さな光が漏れた。ふたりの影と闇が周囲を包み込んでいる。
ぼんやりとした薄明りの中で、ハルカはしっかりと閉ざされている隔壁を発見する。その横には保安装置だろう、十数センチ四方の箱型の装置に、テンキーとカメラが備え付けられ、その下にスピーカーの記号が書かれたボタンがある。
ふたりはインターホンというものを知らなかった。部屋の出入りにも生活層の出入りにも、すべて認証カードをかざすことで、承認を問い、相手から承認を得れば内部に入れるような仕組みになっているからだが、しかしながらわかりやすいそのシステムは、ふたりにインターホンとは何かを部分的にではあるが理解させられたのであった。
「押してみる?」
「本当にいるのかなあ」
「でも、これを押して呼び出すんだよね?」
「多分、ね」
ピンポーン。
電子音が無機質に響く。
しばらくの静寂の後、隔壁はゆっくりと、音もなく開いた。
「どういうことだ……」
セリナは怪訝そうに内部を見つめる。
ハルカが何かを口にしようとした時、建物が急に明るくなった。
「わっ、まぶしっ!」
セリナは目をつぶったが、ハルカは「それ」をまともに見てしまった。
内部の中央にある、巨大な装置。
その真ん中の大きな画面が、語りかけていた。
「ようこそ、Vの諸君」
そして、画面の文字が入れ替わる。
「私、オガシラ・マサルは、諸君の問いに答えることが出来る。——質問を入力したまえ」
「なんだこれ?」
セリナがようやく画面に気づき、声をあげた。
「わからない。でも、彼は僕たちがここに来ることを知っていたみたいだ」
ハルカは、巨大な装置に近づき、質問を入力した。
「Vとは何者ですか?」
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