Agnus Dei 7
「零式」との戦いで、戦闘が可能な「V」は半分に減り、第一部隊もかなりの人数が消耗している。
ハルカは先頭を、セリナは
上空は拍子抜けするくらいに穏やかで見通しもよく、「零式」がどこかに潜んでいる風は一切見受けられない。海より透き通った青に真っ白な薄い雲がいくつかたなびいている。
「いい天気ですね!」
ミツキは努めて明るくセリナに話しかける。彼女がどことなく暗い感情を隠しているような気がしたからだ。
「ああ、そうだな」
セリナは上の空で返す。自分が言い出したことなのに、第一部隊を、ハルカを巻き込んでしまった。今更ながらそれでよかったのだろうかと気が気でない。
眼下にはかつて栄華を誇っていた地上の都市の残骸が大地を灰色に塗りつぶしている。無数の道路と鉄道が走り、文字通り血管のように各地に物資を運んでいたような、今から考えれば原始的ともいえる営みがかつて本当に行われていたことが嫌でもわかる。この列島はかつて
「第一部隊は、ここで周囲を警戒した後、
ツクバ地区が近づいたところで、第一部隊を解散させる。数名ほどの小さな部隊は、三つのグループに分かれて散った。
「コギソさんからの情報では、さらに北のようだね」
誰もいなくなったことをハルカが確認すると、セリナは北を指さし、飛行を続けた。
もう、灰色一色ではなく、かなりの割合で緑色が増えてきた。
「カントー平野が終わって、山が見えてくる頃って言ってたから、この辺じゃないかな?」
「そもそも、ドラゴンに見つかりにくいようにしてあるみたいだから、この距離じゃ見つからないよね」
「下に降りて探してみよう。かつての市街地からは少し離れている研究都市と言っていたから……あっちに変な色の建造物がある」
「行ってみよう」
セリナは器用に下降し、周囲とは少し雰囲気の異なる建造物が林立する地区を目指した。ペンを巨大にさせたような、錆びついた尖塔のすぐ近くを飛び、あたりを見回す。
「近くに鉄道が走っていて、それが地下から延びているやつなんだって」
セリナがメモを読み上げる。
「あれかな」
ハルカは同じように錆びついた線路が地下のトンネルから出ているのを見つけた。線路は
「追ってみよう」
セリナはハルカの少し上を飛ぶ。周囲に何もないことを確認するのは忘れない。
「何かある」
線路は、小ぢんまりした箱型の建造物の中に吸い込まれ、そこで終わっていた。建造物は、三十メートル四方の正方形で、二階建てだったが、窓がどこにもない上にすべてコンクリートで覆われていて、本当に箱のようだ。ただ、線路が入るところだけに小さな穴があいており、そこに列車を乗り入れることができるようになっていた。
「コンクリートで固めた建物。たぶんこいつのことだ」
「入ってみよう」
ハルカたちはその穴から、内部に入り込んだ。
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