Agnus Dei 11

 ういーん。

 機械と化したオガシラ・マサルは、その言葉を待っていたかのように、今までにないほど大きな作動音を響かせた。無機質な重低音が研究室いっぱいに広がる。

「——質問に、答えよう」

 そして、オガシラ・マサルは最後の質問の回答を始めた。


「『零式レイシキ』とは、私がさる権力者に命じられて製作した、人類を破壊し、殺戮し、そして滅亡へと導くことのできる究極のドラゴンのひとつである。彼女たちには、Vの攻撃などほとんど問題にならないほどに強力な爪と優秀な翼、硬質の鱗を与えた」


「ひとつ?」

「あの強さのものが、他にもいるということ?」


「私がその方に命じられて製作したものは三体。うち一体は製作途中の事故で死亡したことに、もう一体は製作途中に脱走したことになり、残りの一体が『零式』だ。この三体は、ある女性研究員から提供された卵子を原初としているため、姉妹にあたる」


「脱走って……じゃあもう一体いるってこと?」

「いや、脱走したことになっているということは……まさか」

 ハルカは既に気づいていた。自分の脳裏に消された記憶が何物なのかを。

そして、レイ・ホウリュウがどうしてその記憶を選択して消去したのかも。

「『零式』は、白銀の美しい鱗を持ち、他のドラゴンを圧倒する大きさが特徴の、私が作り上げた中で最も美しいドラゴンだった。彼女のおかげで詰所ステーションの防衛体制を変更に導くことが可能となった。また、それだけでなく、人間を滅亡に導く彼女の力で、人間たちは新たな文明を築き上げ、それを確固たるものへと進化させることができるはずだ。

 ——それで滅びてしまうのであれば、そういう運命なのだろうと、私は思う」


「ちょっとハルカ! やめなよ」

 ハルカはオガシラの説明を待たず、次の質問を入力する。

「こうなるところまで、オガシラは読んでいるはずだ。コウサキ・アヤノがいずれここに来ることを彼は知っていたんだ」


「残りの二体はどうなったのですか」

 ハルカはすかさず質問を入力した。

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