Kyrie 7

「どうして……」

 詰所ステーションの隔壁はいとも簡単に崩落して、住民の悲鳴がこだました。地中なのに地面が揺れているような錯覚。立ち尽くす、住民たち。

 左手の硬くなった温もりが、するりと解かれて。

「ハルカ、ごめん」

「アヤノ……」

 僕は、ただ立ち尽くすことしか出来ない。

 いつもそうだ。

 夢だ。夢だってわかっている。

 ただの夢なのに。


 同じ夢ばかり。

 同じ夢ばかり。

 同じ夢ばかり。


 そして。

 いつもいつも。


 何度も何度も。

 僕の目の前で。

 僕が初めて買った紅色のワンピースを脱ぎ捨て、対竜装フォースを纏ったコウサキ・アヤノは。

 背から生えた翼と、尾から生えた二メートル近い長さの剣を手に取り、白銀の化物ドラゴンに対峙する。


「みんなを、逃がしてあげて」

 何度めかわからない、従うことの出来なかった指示を最後に。


 コウサキ・アヤノは飛び立って行った。

 行ってしまった。

 ただの点ほどの大きさになったアヤノと、その数百倍はあるであろう、異形の生物は、にらみ合う、ことすらできずに。


 地に墜とされたアヤノは、まだなんとか、ひとのかたちをとどめていた。

「アヤノ!」

 声をあげたが言葉はない。

 そうだ。

 もうわかっているはずだ。

 死体なんて見慣れていたはずの僕が、目を覆わなくてはならなくなるほど傷ついていたのに、それは奇跡的に、さっき別れた時とほとんど同じ顔をしていた。

 けれどアヤノは。

 その顔は。

 コウサキ・アヤノは。

 もう、目を開くことはない。

 僕を見ることも、

 ひとを守ることも、

 自分を守ることも、

 敵を殺すことも出来なくなってしまった。

 だからアヤノは、もう眠る以外にない。

 闇に飲まれていくしかない。

 アヤノが殺しきれなかったものは、僕が殺すしかない。

 僕にしか殺せない。

 僕以外に、殺させはしない。


 だから。


 何度も何度も繰り返し繰り返し。

 僕が僕でありつづけるために。

 この夢を見なくてはならないのだろう。

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