最終話 戦闘指揮管制室のラストバトル

 …病室内で僕たちが掛賀先生と会話していると、ドアを開けて間森一佐が入って来た。

「お二人とも気が付かれたんですね!…身体は大丈夫ですか?」

 一瞬だけ笑顔を見せて間森一佐が言った。

「全然大丈夫です!…U - ホークは多気山に帰って、状況終了なんですよね !? 」

 甲斐路がそう言うと、

「…いえ、目標を倒した訳ではないので部隊長は状況終了と認めていないようです」

 間森は答えた。

「…そんな!」

 僕はやや呆然とした声を上げてしまった。

「自衛官も何人か命を落としてますので…部隊長としてはどうしても目標と決着をつけたいと考えているようです」

「僕と甲斐路だって、命懸けでU - ホークと対決したんですよ!…その結果、U - ホークは多気山に帰ってくれたんです!甲斐路の決死の努力を無視して、あんたたちはまだ火力兵器を意味も無く無駄撃ちするつもりなんですか !? 」

 僕はこみ上げて来た怒りを抑えられずに間森さんに言葉をぶつけてしまった。

「私は自衛官ですので、自衛隊規律に基づき組織の指示命令に従って動かなければなりません ! …これからまた県庁の戦闘指揮管制室にて作戦会議が再開されます。私は戻らねば」なりません ! と間森が言い終わらぬうちに、

「私(僕)たちも行きます !! 」

 僕と甲斐路と先生は同時に叫んでいた。


 …間森一佐の車で県庁に着くと、時刻はお昼の12時半を過ぎていた。エレベーターで15階に上がると、戦闘指揮管制室では対U - ホーク対策会議がすでに始まっていた。

 メンバーはほぼ昨日と同じ顔ぶれ、防衛省幕僚長と暗部首相は例によってモニター越しの出席、しかし見回すと宇都宮中央警察署と東警察署の署長の姿が無かった。

「…相手が人ではなく怪獣なので、これは警察の仕事の範疇外の案件だということで、両署長は会議メンバーを外れたいという申し出がありました」

 多々貝自衛官が僕たちに説明した。

「ただ、警察としては宇都宮環状道路その他の通行規制を早く解除したいので、速やかに結論を出して頂きたいとのことです」

 続く多々貝自衛官の言葉に、部隊長は明らかにイラついた表情を示した。

「…とにかく、状況が終了したとは全く早計な判断だ!…確かに81式誘導弾は目標に着弾しなかったが、爆発により飛散したガレキ類等により奴の身体に傷を負わせることは出来たはずだ!…多気山に逃げ帰った今こそ、奴を攻撃する最大のチャンスであると確信する。住民の避難も要らないエリアなので思い切り火力を集中出来るし、奴を葬るなら今しか無い!」

 部隊長が声を高めて言った。

「まだそんなことを!…」

 僕が席から立ち上がって叫ぼうとした時、隣の掛賀先生が僕の左肩を手で掴んで制した。

「現場…多気山の探索映像はどうなってる?」

 モニター画面の中から幕僚長が質問した。

「それが…30分前からドローンを飛ばして多気山西側山腹を俯瞰撮影しているんですが、普通に山林に覆われて何の異常も無く…目標が出入りした状況も痕跡も確認出来ません!』

 自衛隊スタッフがそう言ってメインモニターにドローンからの映像を出した。

「…いや、そんなはずは !? …目標が出現した時には山腹に崩れた跡や、奴が納まっていた空洞などを私は視認し、報告しました!」

 間森一佐が言った。

「陸自宇都宮北の管制レーダーでも、目標は多気山の地点まで移動して消えています!」

 自衛官スタッフも報告した。

「それなら奴は間違いなく多気山に戻って山の中に隠れたという訳だな!西側山腹を爆破して、奴が露出したところに地上からの集中砲火を浴びせる作戦を取る!」

「まだそんなことを言ってるんですかっ !! 」

 部隊長の言葉に怒りを覚えて僕はたまらずに叫んだ。

「護神獣はあんたたちのミサイル攻撃によって僕と甲斐路がダメージを受けることから守ってくれたし、そのとばっちりでケガした傷も治してくれたんですよ!」

 僕はもはや完全に頭に来てたけど、部隊長はさらにムカつくことを言ってきた。

「勝手に無謀な行動に出た高校生が何を言う!…怪獣を倒すのが我々の仕事だ」

「そっちこそ何言ってんだ!僕は命懸けで人類を救っ」たんだぞ !! と立ち上がって言いかけたところで今度は甲斐路が僕の右肩を掴んで制した。

 グッ! と言葉を飲み込んだ僕と部隊長の視線が管制室の中でぶつかり合い、火花が散った。

「掛賀先生の見解は?…」

 すると、モニターの中から暗部首相が言った。

「今回のU - ホークの出現理由からその後の行動、二人のU - ホークへの対応による多気山への帰還まで、一切が甲斐路 優さんの学説、調査、推測通りの結果になっています。結果として彼女の言ったことは全て事実となったんですよ!私は今回の件はこれで終了したと思います」

「女子高生の言うことを鵜呑みにしてこのまま終了するというのか!」

 …噛み付く部隊長に、

「失礼ながら結果と現実を申し上げれば、自衛隊の作戦と攻撃は全て失敗に終わりましたが、甲斐路さんの考えと行動は全てその通りに進み、結果としてU - ホークの脅威から我々を救ってくれたんです。その結果と事実を否定することは出来ません」

「……………………… ! 」

 冷静な先生の発言に、室内は沈黙したが、やがて暗部首相が口を開いた。

「分かりました。…幕僚長、状況終了宣言を出してください!」

 その瞬間、僕と甲斐路と先生は顔を見合せてガッツポーズをとり、(よしっ !! ) と心で叫んでいた。


 …JR東北本線と新幹線はまだ復旧していないので、僕たち調査隊3人は間森一佐の車で、運転を再開した東武鉄道の宇都宮駅まで乗せてもらい、家に帰ることになった。

 車から降りた時、間森一佐は僕たちに直立不動の態勢で敬礼してくれた。


 …電車に乗る前に先生と僕と甲斐路の三人で駅近くのオリオン通り商店街に寄って遅い昼食を摂った。

 掛賀先生の奢りで、メニューはもちろん餃子定食だ。

「怪獣の脅威から人類を救ったご褒美よ!」

「…それが餃子定食って、僕の活躍、やっすくないですか?」

 そんな会話に三人で笑ったご飯の後、先生と甲斐路は駅の前でハグして、先生は僕にもハグしてくれようとしたけど、僕はちょっと気恥ずかしくなって辞退した。


「…昨日より栃木県宇都宮市に出現した怪獣U - ホークは本日午前8時過ぎ、自衛隊による至近距離からのミサイル攻撃を受け、出現場所である市内西部の多気山に逃れ、姿を消しました。…陸上自衛隊宇都宮部隊及び防衛省はU - ホークに対し、完全に死滅させてはいないものの、自衛隊の火力攻撃の効果により、怪獣の戦意を喪失させて多気山に封じ込めたことを確信したとして、本日午後2時、防衛省幕僚長と暗部首相が同時記者会見を行い、状況終了宣言を発表しました…」

 夕方のテレビニュースを僕は自宅で見た。

 甲斐路と僕の決死の行動は全く報道されなかったけど、まぁこれがいわゆる平和的解決のスタイルなんだろうな…と醒めた目で見ている僕だった。


 …それから数日後、思いがけないニュースが入って来た。

 あの宇都宮自衛隊の部隊長が、自衛隊勤務明けの休日に、市街地で突然数羽のカラスに頭部を襲われて死亡したのだ。

 報道は大々的ではなく小さな扱いだったけど、僕はビックリして複雑な思いを感じていた。

 さらにその日、暗部首相が体調不良を訴え、長期治療が必要なため辞任する意向を示したという報道があった。


 …それからさらに数日後、僕は高校三年生になった。

 甲斐路とは別のクラスになったけど、教室はすぐ隣なのでお互いの顔は毎日見ることが出来た。

 …新しいクラスになって二日目の昼休み、甲斐路が僕の教室にスルリと入って来て笑顔で言った。

「乙ちゃん、今度の週末私と出掛けよう!」

「えっ !! …どこへ?」

 突然に美少女が僕のところに親しげにやって来たので周りのクラスメートらがザワついた目で僕と甲斐路を見るのが分かったけど、もうそんなことは気にしないぜ!と思った。

「那須烏山市 ! …そこに龍門の滝っていうのがあって、滝の裏側に竜が封印されてる洞門があるという伝説があるの!」

 キラキラン ! と眼を輝かせて話す彼女にもちろん僕は付き合うしかない。

「分かった!」

 そう応えると甲斐路は、

「じゃ、また後で連絡するね!」

 と言って自分の教室に帰って行った。

「…何 !? お前、あんな可愛い子と付き合ってるの?…しかも彼女から誘って来るって、超シアワセじゃん!」

 甲斐路が去ると、たちまちクラスの男子らがそう言って冷やかして来たので、僕は最後に堂々と言ってやった。


「当然さ!何しろ僕は彼女に、超命懸けで付き合っているんだから !! 」



 怪獣少女 甲斐路 優


 完



 ※ 作品中の埼玉県、栃木県における地名、都市名、遺跡などは実在するものですが、登場人物とその行動、事件などは作者の創造によるものです。実在の団体には全く関係なく、全てフィクションです。






















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怪獣少女 甲斐路優 (護神獣降臨) 森緒 源 @mojikun

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