第24話 状況は終了したのか !?
…甲斐路の頭部からの出血は、降り始めた小雨とともにアスファルトの地面に流れ出した。
そして僕の右腕もジンジンと痺れるような痛みが襲って来た。
見れば着ているジャンパーの右手上腕部が裂けて、中のシャツも切れて血が滲んでいる。
( くそっ、何なんだこれ !? …護神獣への愚行の"戒め"を、まるで僕と甲斐路が受けているみたいじゃないか!)
悲痛な心の叫びを上げて顔を空に向けると、回転する光の輪の中から薄い緑色の光が降りて来るのが見えた。
その光は柔らかいオーロラのカーテンのようにゆらめきながら地上に届くと、僕と甲斐路を包んでさわさわとうごめいていた。
( この光はいったい?…僕たちに何をしようとしてるんだ !? )
全く訳の分からない出来事の連続の中で、僕は何故だか急に襲って来た疲労感と倦怠感に全身をやられて気を失って行った。
『…少しの時を経て見たお前たちは実に愚かで幼い者ばかりだったな』
…僕の脳内に声が入って来た。
『だが、お前の "畏れ、聞き入れる" 姿に嘘偽りは無かった』
…その声に、僕は脳内で応えた。
(…僕はあなたとの関わりの中で、甲斐路と共に多くの真実を悟り、学びました。これからはさらに学ぶ姿を同胞に示し、愚かなことをしないように改めて行くことを誓います)
『…此度はお前たち二人を友と信じ、学ぶ姿を信じて私は再び姿を隠し、お前たちのこの美しい星を見守ることとしよう…お前たちとはしばしの別れだ、友よ…』
…脳内の、声だけのやり取りだったけど、僕はまた何かがこみ上げて来て泣いていた。
「間もなく塚山古墳です!」
車のハンドルを握る間森一佐が、助手席の掛賀に言った。
「U - ホークと、上空の発光体が見えるわ!…あの緑色のレースみたいな光は何かしら?」
掛賀が現場の方向を指差しながら言った。
すると直後に緑色の光は止み、上空で回転する発光体の輪の中心からは新たに北西方向に白いレーザー光が放たれた。
「あのレーザー光は !? …」
掛賀の言葉に、
「…多気山の方向です!」
間森が応えると、U - ホークが翼を羽ばたかせて飛び立つのが見えた。
宇都宮環状道路を東へ、塚山古墳に向かう間森らとすれ違いに、車窓左手の空を巨大鳥は多気山方向へと飛び去って行く。
「…これはいったい?…」
間森一佐が状況を一瞬理解出来ずに呟くと、
「…終わったんだわ ! …あの子たちが、やってくれたのよ!早く、現場に急いでください !! 」
だんだんと声のトーンを上げながら掛賀が応えた。
間森一佐がさらにアクセルを踏み込んでスピードを上げた時、現場上空から回転発光体がスーッ! と流れるように巨大鳥の後を追って多気山方向へと移動して行くのが見えた。
…僕が目覚めたら、いきなり目の前に甲斐路の顔があったのでビックリした。
「乙ちゃん!…良かった~、気が付いたのね !! …掛賀先生ーっ!」
甲斐路が顔を上げて振り向きながら叫ぶと、次には掛賀先生の顔が現れて僕の顔を覗き込んで来た。
「乙掛くん、大丈夫?」
不安そうに訊かれた僕は周りを見回しながら上体を起こした。…どうやら病院のベッドに寝かされていたことが分かって、逆に質問を先生に返した。
「U - ホークは?…回転発光体はどうなったんです?…甲斐路のケガは! …大丈夫なのか?」
病室にはベッドが二つ並んでいて、おそらく甲斐路はもう一つの方に寝かされていたんだなと分かったが、
「私もさっき気が付いたばかりなの! …乙ちゃんも気を失ってた時、護神獣の…あの人たちの声を聞いたでしょ?…昨日からの状況は終わったんだよ!私と乙ちゃんの声が届いたの !! 」
僕のベッドの脇の椅子に腰かけて甲斐路が言った。
「ケガは?…僕たちの…この病院で処置を受けたのかな」
「…それがね、私の傷も乙ちゃんの傷も、病院に運ばれた時には何故か傷口がふさがって自然治癒状態になってたのよ!病院の先生が診たらもう治ってたんだって!」
甲斐路が不思議そうに説明したが、僕はその時、
( あの緑色の光だ!…)
と感じていた。
「それにしても、あなたたち無茶しすぎよ!…勝手にあの護神獣と対決しに行くなんて、それも私の道具を黙って持ち出して!」
掛賀先生がそう言って僕たちを叱ったけど、すぐその後で
「…まぁ、だけど今回は大目に見てあげるわ ! …人類を救ってくれたその功績に免じてね!」
と言って笑ってくれた。
「おぉっ!そうだよ、僕はU - ホークを多気山に帰して人類を救ったんじゃん!…甲斐路に宣言した通り、やってのけたんだ!凄いぜオレ」
僕は叫んでいた。
…しかし同時にまた目から涙が出ていた。それに気が付いたら、ちょっと恥ずかしかった。
時間を少し戻すと、間森は掛賀と共に戦闘指揮管制室に連絡を入れ、塚山古墳の前で倒れた甲斐路らの救出に向かい、二人を車で病院に運んだ。
掛賀の言葉に従い、間森は状況が終了したことを管制室に伝えたが、目標を倒すことが出来なかった結果に部隊長は終了宣言を出すのをためらった。
「決着はまだついてない!…終了宣言を出すのは学者じゃない、この私だ !! 」
管制室のスタッフに部隊長が叫んだ。
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