第13話 抜腰虫の治療術


 保管蔵から、乾燥された生薬を何種類も持って修治室に来た。

 

 正気を補うもの、血の循環をよくするもの、致死毒の毒を抜いて体を温める作用だけがあるもの、体全体を潤わせ、煎じ薬としての味を整えるもの。

 それも、テオの体に合わせて選んできた。


 効果を高めるため、煎じる種類は出来るだけ少なくすることにした。数が多くなるほど、効能はまろやかになってしまう。

 そういうことも、今では勝手に指が動いて出来るようになった。


 分量については、人間は個体差が大きく十倍以上の開きがある。

 テオに必要な量は、昨日出会った時に、およそ見当をつけていた。


 人とすれ違った瞬間に、その人の治療の方針と量を決める。そういう訓練は嫌というほどさせられ、職業病のようになっている。


 テオには、これから体に直接施術もするので、量は最低限にした。

 竈門に火をつけ、水を入れた土鍋に生薬を放り込んだ。本当は、薬を入れる順番などもあるが施術を優先して、そこは省く。


 竈門の火を最小にして、テオの寝室に戻った。


「いやー、テオさんの修治、すごいね! うち、こんなの初めてみたよ。どの子も、すっごく使いやすくて、それなのに力が強い」


 持ってきたものを台座の上に置き、エナは上機嫌にまくし立てた。


「ふん。当たり前のことを、当たり前にしてるだけさ。それより、あんた、本当に治療なんて出来るのかい?」


「当たり前のことを、当たり前にするぐらいはね」


 こちらに背を向けて寝る、テオの腰に服の上から手を当てた。


 皮膚表面はむしろ柔らかい。奥に固いのがあって、冷気のようなものがこもっている。

 手で触れて状態を見抜くのを“せつ”という。

 “望”と“聞”で状態を一瞬で判別し、“切”で最終確認する。

 切には、皮膚を触る切診、脈から状態を類推する脈診、腹から予後を判定する腹診がある。

 

 このやり方は、隠れ里で代々伝えてられているもので、そこ以外ではあまり見なかった。


 しかし、経験上呪術やインカやマヤの医術と組み合わせ、応用させると間違いなく治癒率があがる。


 おそらく、ではあるが“知られざる生命の秘密”の本質に届いている。

 エナは、そう思っていた。


 医術も呪術も、武術も根源は同じもので、目に見えるものや、病状というものは、根源がこの世に落とす影のようなものなのだ。


 根源を読み解き、理解し、今一度正しい方向に修正してやる。それが、呪医術師の仕事だった。


 エナは、旅をしながら患者の体を通じて、それを学んできた。








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