第27話 ショピング×遭遇

二学期も始まって、もう二週間が過ぎようとしている。

最初は、久しぶりの学校に胸を踊らせたりもしていたがいつの間にか当たり前の日常に戻っていた。

そんな中、僕の通う学校は今まさに、活気づいていた。

児童、先生関係なく、騒がしく慌ただしくしている。

その理由は.....。


「——あと少しだな!運動会!!」


九月の下旬にある、運動会。

赤組、白組に別れて紅白対抗で競い合う。

学校の一大イベントが、もうすぐそこまで近付いているのだ。

という訳で、僕のクラスもどっちが勝つかと騒ぎ立てている。

「翔太、運動得意だからいいよなー。俺は足遅いし……きっとみんなの足でまといになる……。」

「そうかー?洸希が出るのは借り物競争だろ?なら運だよ!運!」

僕の机を取り囲むように、友達が集まる。

かくいう僕もそこまで運動が得意という訳では無い。

僕が出るのは障害物競走。多少の体力を必要とするものの、参加者は僕と同じように身体を動かす事に慣れてない人達だ。

きっとそれなりに、いい順位は取れる……はず。


僕と友達の翔太は赤組。

もう一人の友達である洸希は白組だ。

そして、僕達は紅白対抗戦以外にもう一つ、重要な種目がある。

「後はやっぱり……組体操!!」

低学年、中学年、高学年と、学年ごとに別れる種目。

高学年は組体操を行う。

組体操は、様々な種目の中でもかなり期待されている種目だ。

最後には、目玉となる大きなタワーを作り上げる。

最近はもっぱら、この組体操の為に体育館や校庭に集まって練習三昧だ。

「翔太は背が高いし、力持ちだから一番下で……洸希は背が低くて軽いから、タワーの一番上に登るんだよね?二人とも大変そう……」

なんて、他人事のように話しているが実際他人事だ。

余り物の僕は、二人が作るタワーの周りを囲む小さなタワーの、それも真ん中役。

当たり障りない役職だ。気も緩む。

「くっそー俺だって優太の場所が良かったー!こうなりゃ……そりゃ!」

洸希は背も小さく、女子からも小馬鹿にされるくらい体力も無い。

馬鹿にしたつもりは無いけど、洸希は机にぶら下げていた僕の紅白帽を取り、おもむろにに振り回す。

「あっ!てめっ、洸希ー!!」

「へっ!返して欲しくば、俺とポジションを交換しろー!」

「無理言うなよー!それに、それは先生が決めたんだから僕には変えられないって!」

「なら、少しくらい俺に優しくしろー!今日の駄菓子百円分、奢れー!」

なんて、そんなやり取りをしていた最中だった。洸希がくるくると紐を回していた紅白帽がぴゅんとあらぬ方向に飛んでいく。

「あ。」

教室の床に、力なく落ちた僕の紅白帽。

「何やってんだよ、洸希〜。」

そんな愚痴を零しながら、自分の紅白帽を取りに行く。

特に目立った汚れは無かったが、どうして突然帽子が飛んで行ったのかその理由は、帽子を手に取ってから分かった。

「ゴムが、切れてる……。」

「ま、マジ!?わりぃ、優太!」

「いや、別にいいよ。まあこの帽子小一から使ってたし、寿命だったんだろうなぁ。」

それなりに愛着もあったし、思い出も詰まった帽子。

でも、こうして紐が切れてしまったのなら仕方ない。これも運、って事かな。

「明日、新しいやつ買うから、そんなに気にすんなって洸希。」

「ほんとーにすまん……この借りは必ず返す……っ!」

と、そんなこんなで僕は翌日、新しい紅白帽子を買いに、ショッピングモールへと足を運んだのだ。


——お姉ちゃんと一緒に。



「ねぇ優くん!あっちにゲームコーナーあるよー!後でプリ撮ろ〜!」

そう、今日は土曜日。つまり、お姉ちゃんの願い事をなんでも聞く日。

そんな日になんでショッピングモールに来ちゃったんだ……僕!!!

朝早くに家を出て、開店と同時に買ってさっさと帰ろうとしたのに……まさか、玄関を開けたらお姉ちゃんが立ってたなんて!!

「あれ!?優くん何処行くの〜?え!ショッピングモール!?私も行く〜!!」

と、強引に付いてきてしまった……。


はあ、とため息を漏らす僕の隣でお姉ちゃんは楽しそうに目を輝かせている。

「優くん!後であっちの雑貨屋さんも行こうね!後は……」

「ストーップ!言っとくけど今日は紅白帽を買いに来ただけだから!!寄り道無し!絶対にダメ!」

「えー……。っていうかなんで紅白帽?汚れちゃったの?」

そういえば僕はお姉ちゃんに事の経緯を話していなかった。

ざっくりと説明すると、お姉ちゃんはうーんと顎に手を添える。

「それってつまり、ゴムの部分だけが切れたって事だよね?」

「え?うん、そうだけど……。」

「なら、わざわざ新しい帽子を買わなくても、新しいゴムを買えば直るよ?」


お姉ちゃんの思わぬ発言に、僕は思わず「そうなの!?」と声を上げる。

目を丸くさせる僕を見て、お姉ちゃんは嬉しそうにニコリと微笑んでみせた。

「うん!百円ショップとかでも簡単に買えるし、帰ったら私が直してあげるね!」

「えっ、お姉ちゃんって……裁縫出来るの……!?」

「それくらい出来ます〜!言っておくけど私、これでも高校では優等生なんだからね!?」

「えっ、それってただの設定じゃ……」

「メタい!優くんそう言う事言ったらダメ〜!!」


と、そうこうあり僕達はまず百円ショップに向かった。

その間、お姉ちゃんは自分が如何に優秀で、優等生なのかを僕に熱弁していたけれど、半分以上は右から左に流れて行った。

エスカレーターを上り、二階にある百円ショップの裁縫コーナーに。

そこには、帽子に使っているゴムと同じような物が単体で売られていた。

「本当に売ってる……」

「でしょー?これがあれば、あとは私がちょちょいのちょい!だよ!」

「僕的にはそこが一番疑い深いんだけど……まあいいや。じゃあこれ買ってくるね。」

ゴムを一つ手に取って、僕はレジに向かう。

さくっと購入し、見事に僕の目的は達成された。


思いの外あっさりと買い終える事が出来て、これまでの気苦労や心配は何だのか……と思いつつ、百円ショップを後にする。

今日は土曜日という事もあって、ショッピングモール内は家族連れや、学生で賑わっていた。

「さてっと。じゃあそろそろ帰り——」

「帰る、なんて言わないよね?優くん?」

おい、今帰るって言おうとしただろ。と冷静にツッコミたくなる心をググッと抑え込む。

横を向くと、キラキラと輝く瞳で微笑むお姉ちゃんがいた。

「いや、欲しい物は買ったし、家に帰って勉強……」

「ダメ、ダメだよ、優くん!!息抜きも必要です!!勉強ばっかりだと頭がパンクしちゃうでしょ?っていうか私、まだ遊んでない!!」

僕はつい十数分前、目の前にいるこの人が如何に勉強ができる優等生なのかという熱弁をされたところだったのだけれど。

やっぱりお姉ちゃんの話は流す事に越したことはないな、と新たな教訓を得たところで、お姉ちゃんに聞き返す。

「息抜きって……夏休みに結構息抜きしたよね?」

「それはそれ、これは、これ。」

と、ジェスチャーで表現してみるお姉ちゃんに、僕ははあ、とため息を漏らす。

「だいたい、受験も近付いて来てるんだから、ちゃんと勉強しないと——」

と、年下の僕が年上のお姉ちゃんの説得を試みようとしていたまさにその時だった。


「——あれ、優?」


聞き覚えのある、少し気だるさの残る声。

くるりと振り返ると、そこにはまなねぇがヒラヒラと手を振っていた。

「まなねぇ!?どうしてここに!?」

「配信機材色々見に来た。ここの電気ショップ、割とその辺りの品揃え良いから。優は?」

「僕は……まあ、色々と?」

私服姿のまなねぇは、髪を束ねてラフな格好をしていた。

ふーん、と口にしながらまなねぇは僕とお姉ちゃんを交互に見る。

「優はこの後何か行くところあるの?」

「え?いや、もう帰ろうかなって。」

買う物は買い終えたし、あとは隣で赤ん坊のように駄々をこねるお姉ちゃんをどうこうすればいいだけだった。

そんな僕の言葉に、まなねぇはしばらく黙り込んだ後、おもむろに手を伸ばす。


「——!?!?」


まなねぇは僕の手をぎゅっと握ると、顔色一つ変えずに僕に告げた。

「なら、遊ぼ。」

まなねぇはグイッと僕の手を引っ張って、強引に歩き出す。

それに引っ張られるように、僕はまなねぇの後を早歩きで追いかけた。

「え、ちょ、ちょっとまなねぇ!?何処に行くの!?」

「私、優不足だから、補給しないと。」

「答えになってないよね!?」

ずんずんと、迷いなく歩き出すまなねぇとそんな高校生に引っ張られる僕。

そしてぽかんと口を開けたまま、置いてけぼりにされるお姉ちゃん。

「……はっ!ちょっと待ってよ〜!二人とも〜!!!」

お姉ちゃんの悲しげな声が響き渡る。


ただ、運動会の為に買い出しに来たはずが……思わぬ展開に……。

っていうかこれ、僕どうなるんだ……!?

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拝啓、近所のお姉ちゃんのショタになりました 桜部遥 @ksnami

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